20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「……………………」


「……」




何も言われなくても、ナマエが呆れているのは空気を通して伝わって来る。伊達に意思疎通の下手くそな者同士揃って何年も一緒に過ごしてない。あの沈黙の長さから言うと、「医者のくせに…」もしくは「医者の不養生ってこう言うことなんだ…」ぐらい思っていそうだ。だがそれをナマエが口に出さないのは、病人であるローを慮ってのことではない。単純に口を噤んでるだけ。必要な事以外はあまり話そうとしないナマエらしいと言えばらしいことで、そんなことをいちいち取り立てて追求するような間柄でもない




「………ナマエ 何か言いたいことがあるなら、ゴホッ ……遠慮せずに言え」
「…………原因、分かってる?」



夜更かしと栄養失調よ。どう考えても自業自得。こんな不摂生な生活を送ってる自覚はちゃんとあった?いくら貴方だって風邪も引くわよ、人間じゃない



ローに促されれば、ナマエは饒舌に喋り出す。お許しを得た犬のようだ、と昔に言って手酷い目に遭ったのを思い出した。
ナマエの語る言葉はどれも本音だ。故に耳だって痛くなる。ローは頭痛と吐き気に悩まされている頭を更に痛めながら、恋人からの苦言に耳を傾けていた



「キャプテーン 具合の程はどうですか?」


夕食と薬を盆に乗せたシャチが船長室へ入室してくる。別に良くねぇよ、と顔を顰めたローに良くはなさそうっすね。と声を掛け、盆を椅子に座っていたナマエに手渡す。「じゃナマエちゃん、これキャプテンの分の食事だから食べさせてあげて」ナマエちゃんの分は食堂で確保してあるから。すぐに退室していったシャチの背中を見送って、ナマエは手元の盆を見下ろした



「…………食欲…」


下から窺うように呟いたナマエの言葉にローは小さく頷いた。
食欲ならあるから食べさせろ。
こんな短い言葉でさえ交し合わない二人を シャチは扉の外で不思議に感じている
おかしな二人だよなぁ、キャプテンとナマエちゃん
だがきっとそれは、自分など想像の及ばないような根っこの部分で二人が繋がっているから成せる関係なのだろう。そんな恋人、おれも欲しいなぁ シャチの独り言は誰も拾わなかった





喉も痛めているローが食べやすいように作られたお粥を蓮華に掬ってふぅと息を吹いた。いくら米好きな者でも、こんな熱々のおかゆをそうそう食べたいものじゃないはず



「……身体、起こせる?」
「ああ…」
「…はい」



まさか、ナマエの手ずから食べさせてくれるとは。役得だよなこれって、とぼんやり考えながらローは素直に口を開いた。普段なら絶対してくれないような事でも、病人になれば可能だなんて何処の夢物語だろう



「……もうやらないから」



最初の一口目だけ。そう言うとナマエは盆ごとお粥をローの膝に乗せた。
そんなことだろうとは思ってた。恥ずかしがりやのナマエにしてみれば一口だけでもしてくれたのが珍事に値する
ローも何も言わずに二口目を口に入れる。味が感じられない。これからはもっと塩気を強くしろとコックに言ってみよう
「水、汲んでくるから」部屋に置いてあったガラスのコップを持ち、薬の袋をふりふりと振ったナマエに「ああ」とだけ返す。
「………………」「……分かってる。全部食っとくって」「ん」それだけ言うとパタパタ足音を立てながらナマエの姿は扉の向こうへと消えて行った




「……はぁ」



眩暈がしてきた。とりあえず約束だからとお粥を全部かき込んでから、また布団へと身体を沈めた。

少し、目を閉じるだけ

そう決めていたけれど、いつの間にかローの意識は夢の中へと落ちていたらしい









これは多分、ローの夢の中

ナマエがローのすぐ傍で声をかけている。心配そうな声だ。
「薬は飲んでから寝なさいって……あぁもう」
あのな、ナマエ。おれは、お前のその声が好きなんだぞ。
だからもっと喋ってくれ、って言っても無駄だろうがな



「………仕方ないな…」

ポツリとした声が聞こえた後に、口に柔らかい感触を感じた。
甘い味がしたかと思うと、喉元を通ってきたのは液体と苦味だけ。
感触はすぐに離れて行く







「……あーもう嫌だな…何で意識失ってる人間にするのはこんな恥ずかしいんだろう……」





顔を真っ赤に染めた レアなナマエの顔を見る事が出来なかったローは、暫く後悔し続けたらしい