20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「ナマエってほんとロジャー船長が好きだよな!」って言われるのが好きだ。同い年のシャンクスなんかは本心から言ってくれるし、何かと突っ掛かってくるバギーもからかい半分呆れ半分に言ってくる。その通りだから仕方ない。なんにも間違ってるとこなんてない。俺、ナマエはロジャー船長が好きでこの船にいるんだ。 見たことがあるか?ロジャー船長の海を見据える真っ直ぐな真っ黒の目。暗闇みたいに淀んでるロジャー船長の黒い目に、青い海の色が映りこんでグラデーションのようになるんだぜ 船の中でも特別大きいってわけじゃないのに、ロジャー船長がオーロ・ジャクソン号の船首に立ってるそれだけでこの全ての海はあの人の掌中に収まってしまったような感覚に陥っちまう。 あの人は、本当に凄い。剣でもシャンクスに負け、狡賢さではバギーの方が上だし、狙撃の腕でもレイリー副船長に笑われ、泳ぎだってスコッパーさんに慰められるレベルの俺だが、船長を慕ってるって点では誰にも負けてないって自負できる。 新世界の海。 終着点はもうすぐなのか、まだ遠いのか 俺には分からないが、あの人の下でだったら何処にでも行ける。 俺は間違いなく そう信じてる








最近、ロジャー船長はレイリーさんと一緒に船室に篭って話をする事が増えた。大事な話らしくて、俺らクルーは中に入れてもらえることも、どんな話をしてたのかも知らない。でもただ、レイリーさんは必ず辛そうな顔をして部屋を出てくるし、ロジャー船長も「ん?まぁ気にすんなよ!ハッハッハ!」って笑うだけで取り合ってくれない。そら不安が募ったって仕方ないって思うだろ? でも不安に思いながらも、俺ら全員船長たちを信じて待った。気を抜いて航海を疎かにしてはいけない海で、なるべく皆気にしないようにしてた。 そんなある日だ。ロジャー船長はとんでもない事を言い出したんだ



「――灯台守の船医クロッカスを仲間にする為に、一旦グランドライン入り口まで戻るぞ!」





驚きすぎてみんな開いた口が塞がらなかった。「な、何故ですか!?船医ならもう何人も船にいるじゃないですか船長!」「それにココまで来て引き返すったってそんな…」勿論反論は人それぞれあった筈だ。でもロジャー船長はそんな俺らの心配を一掃してしまうような笑い声を上げて「実はな!おれは不治の病にかかったみたいなんだ!」  ――は、




「……え、ちょ、ロジャーせ、…お、えぇ、え!!?」
「気持ちいいぐらいの"思った通りの反応"だなナマエ! ――てわけで、オーロ・ジャクソン号はこの海を逆走する」
「…駄目だろうロジャー もう少し皆に分かりやすく話さなければ」



前々から知ってたレイリー船長はきちんと話してくれた。ロジャー船長は本当に不治の病に罹っていて(俺なんかの学じゃよく分からない病気)、うちの船医たちの技術じゃもうどうすることも出来ないらしくて、でもその灯台守のクロッカスって医者だけはその病気をどうにか出来るかもしれない腕を持っている。 全員、レイリーさんの話を真面目に聞いていた。 横にいたシャンクスも口を震わせながらロジャー船長のことを見てるし、隣のバギーも半泣きになりながら、俺と一緒にレイリーさんの難しい説明を何とか飲み込もうとする。でもそれで何とか理解出来たのは、船を逆走してその医者を引き込めさえすれば、ロジャー船長は『どうにかなる』わけだ なら結論は一つじゃないか





「――は、早く、早く戻りましょうロジャー船長! 面舵!そ、操舵士、早く船を戻そう!早く!」
「お、落ち着けナマエ 慌てたってイイことなんかないぞ!…うおおっとぉ!?おれコケた!!」
「おお、おおおい落ち着けそこのすっとこどっこい二人組み!こ、このバギー様の指示通りに船を動かせば早いだろって」


「…ナマエ、シャンクス、バギー お前たちが一番に落ち着け」
「ワッハッハ!いいじゃねェか!若いの三人、元気があってよぅ!」



俺たち三人を筆頭に、次第に他のクルーも笑顔を取り戻していた。 そうだな!おれらが不安がってちゃしょうがねェや! ロジャー船長、猛スピードでグランドラインに戻るんで、その間にポックリ死んじまったりしないでくださいよ! 勿論じゃねェか!おれは宝も手に入れずして死なねぇぞ!―――必ずだ!
その船長の言葉だけで、全員がまた活気付いたんだ




「……ロジャー船長!俺に出来ることなら何でもやるんで、何だって言いつけてくださいよ!」
「おう、頼りにしてるぞナマエ! しかし何をしてもらうかな」
「キャビンボーイでも何でもなります!」
「その熱意だけ貰っておくか!」







最高の腕を持つ航海士と操舵士と、オーロ・ジャクソン号が頑張ったお陰で船はグランドラインの入り口、灯台守のクロッカスの許へと無事に辿りつけた。頼み込んで頼み込んで、全員で頭下げまくって、クロッカスさんに仲間になってもらって、「さぁ!もう一度行くぞあの海へ!これが"最後の航海だ"」と言うロジャー船長の掛け声に辛い物を感じながら、ロジャー海賊団はまた新世界を目指して航海を始めた






 。







不可能と言われた"偉大なる航路"制覇を成し遂げたロジャー海賊団、その船長たるゴールド・ロジャーは海賊王と呼ばれた。だがロジャー海賊団は世界から失踪する。海軍も足取りを掴めず、その存在の大きさが世間に衝撃を与え、実しやかな噂だけが一人歩きをしていた時 『"海賊王"逮捕』のニュースを掲げた海軍により、世界はまた大きな驚愕を受けることになる





「…うっ、…うぅっ…!!ロジャ、ア船長…!」
「……………、…」



ロジャー船長は捕まったのではない、自首をした――それは、船長命令によりバラバラとなったクルー全員に行き渡っていた真実 だがそれは、現実に突きつけられてしまえば、こんなにも心臓を苦しめることだったとは知れない
俺は吐き気がした 涙が止まらなくて、嗚咽のせいで上手く呼吸が出来ない。手足は震え、自分を真っ直ぐ立たせない レイリーさんが手を貸してくれてなければ、俺はこのまま倒れこんで地面と一体化してしまう



「な、んで……何でロジャー船長なんだよォ…!」
「……クロッカスにも、どうする事も出来なかった それが、我々に無力を教えるとはな…」
「…っ、病気さえ、なければ……ロジャー船長は、もっと…」
「…あぁ… …まだまだ、海を、ずっと、旅して、いた…かも……しれ……」



 レイリーさんも泣いている
 この人の涙を見たのは初めてだ
 …どうしようもない
 本当に、どうしようもなくて、
 ただ自分が 嫌になる




「………………俺、行きますよ レイリーさんは、行かない、んですよね」
「……あぁ…たとえどんな事だろうと、アイツの死場は、見れそうにない」



表でシャンクスが待っている。ロジャー船長の処刑は、明日だ これはロジャー船長が望んだ事 だから俺たちは、何も出来ない。処刑場に乱入することも、止めてくれと抗議することもなく、ただじっと全てを見守るしかないんだ









「…おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる
探してみろ!この世の全てをそこに置いてきた!」











俺の全てだった人が、今この世界からいなくなった