私を助けてくれた心優しきおじさんの家は酒場だったらしい
うん、何なの私の夢のこのチョイス 酒場とかが夢に出てきたのって今までなかったよ
一先ず私はおじさんの店でお手伝いをさせてもらうことにした
酒場ってのは本とかマンガとかゲームとかで見てるより働けば何倍もしんどいってのが分かった。 酒樽、重っ! 大量のグラス、割りそう! 酒の匂い充満!酔う!私一応未成年! 柄の悪い男たち!怖い! 酒の種類!全部英語!読めない!理解出来ない! でも頑張る!
「ナマエ、4番テーブル片して開けろ!」
「はいぃ!」
丸いお盆と布巾を持ってバタバタと片付ける。途中擦れ違うお酒臭いお客さんたちを「ありがとうございましたー!」見送って、注文を頼まれればメモに持ち替えて訊いておじさんに伝える。厨房で働くパート?のおばさん達から料理を受け取って運んで、「ありがとうよネエちゃん」って言われて、
なんだろう すっごい楽しいぞ…!?
そうか、これが、これがやりがいか……親のスネかじってブランド物にお金つぎ込んでたけど、これが働くことのしんどさと楽しさなんだね…!それを夢の中で教わるとかまじどうした私 この夢が覚めて起きたら絶対生活態度改めるって誓うよ神様………ん?かみ、さま……?
「………神様に叫んだっけ確か……まさか…」
「おおぅいナマエ! ボサっとしてないでこの酒運んでくれや!」
「はいただいまァ!」
お母さん、お母さん! 娘は今、酒場で働いてます!
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おかしな事に全くこの夢が覚めないまま、この夢の世界で数えて一ヶ月と16日目の朝
難しいお酒の名前も何となくの読み方で覚えられるようになって、
大変だけどなんとか慣れ始めたよ。お陰様で でも夢が覚めないのはどう言うことなのかな
「ナマエちゃーん! コッチおかわりー!」
「あ、はーい!」
でも、ずっとこの夢の中にいたい気はする
ここだったら、私はギャルっぽく振舞わなくていいし、柄の悪い男の人たちの中だから私のケバケバしい顔立ちもちょっとは薄れてくれてとやかく言われないし、何より自分を偽らなくてもいい。 すごく、楽だなぁ
「ナマエー、外の樽運んできてくれー」
「わっかりましたぁ!」
「お前一人で運べるようになったのかぁ?」
「ナマエちゃん、女の子なんだから無茶すんなよー!おれが手伝ってやるかー?」
「一人でもいけますよ!まぁ見ててくださいって!」
「ヘヘッ頼りにしてるぜナマエ」
おじさんから褒められた!これはやる気上がる!
酒場の裏口から出て、うちの酒を保管してる倉庫の扉を開ける。
中は薄暗くてムンと酒の匂いがしてた。もう慣れちゃったけど
「えー…と、アポカトリフィ……アポカ…」
頼まれたお酒の名前を1つ1つラベルを確認しながら探し出す
うちのおじさんはイイ人なんだけど、整理整頓が苦手で名前を順番に並べずバラバラに置いちゃうから探すのが一苦労なんだよねぇ
「あ、あった!」
こ、これまた大きい樽ですこと…!樽を引き倒し、横にさせてからゴロゴロと手で押して運び出す。薄暗い倉庫から陽の明るい場所に出ると目が細くなった
「うわー今日もまぶしー…」
「すまねェ 酒を売ってくれないか」
「…え?」
銀髪で、葉巻を二本も吸ってる男の人が話しかけてきた。…これはまた凄く目つきの悪い……私といい勝負だ……じゃない! あ、もしかして
「すみません、店はこの隣の通りから入ったところにあるので、そっちからお買い求めください」
「ん…?あぁ、こっちが入り口じゃなかったのか?」
「こっちは倉庫なんです。 ごめんなさい、うちのお店って入り口分かりづらいですよね」
「いや…コッチこそ勘違いしてすまねぇな。じゃあ表に回るか」
「あ、案内します!」
「そうか?わりィな 昨日この土地に来たばっかで勝手が分かんねぇんだ」
ですよね、私もたまに分かんなくなります。私の夢の中の筈なのに、おかしいですよねえ
「店長〜お客様一人追加でーす」
「おー……て、ナマエ 頼んでた酒はどうした」
「今持ってきますから!!」
「…そう言えば何か運んでる途中だったか 悪いことをしたな」
「いえいえ大丈夫ですよ! ごゆっくり!」
「ああ」
ありがとう
二本葉巻の人はちょっと笑ってお礼を言ってくれた
…いい人だ 結構、かっこいいし