20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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今、ハートの海賊団は危険に曝されている
"偉大なる航路"の海で相次ぐ悪天候と暴風吹き荒ぶ嵐の中、船体を横に薙ぎ払ってくる波との戦いを経て一行が安全圏へと脱出出来たとき、安堵の息を吐く暇もなく、たまたま哨戒任務に出ていた海軍二隻と鉢合わせしてしまったのだ。何たる不幸、バッドタイミング 甲板の上で嘆くクルーには一様に疲労困憊の影が見える。先の嵐は、今までのよりも規模が大きかった。全員が感じる疲れもいつもの二倍で、こんな時に海軍と戦闘なんて、どうなるか知れたものではない
海中に逃げ込むぞ、とキャプテンの命令が飛んだが、それよりも先に海軍船の砲台から砲弾が飛んで来る方が早かった



「うわぁ…!」
「っ!」



予備マスト近くへ被弾し、船は大きく左右に揺れる。船縁に何とか捕まって、海へと放り出されないよう気を払いながら、「しょうがねぇ、白兵戦だ」のローの言葉と共にハートの船と海軍の船二隻は渡り橋によって繋がれる

雪崩れ込むようにして襲いかかって来る海兵の波があちらで二つ、こちらで三つ
個々の戦闘能力が高いハートのクルー達とは言え、人数の差があれば危険は増える
橋の前で、たった一人で次から次へと襲い掛かる海兵達を海へ落とし数を減らして行くローの姿が目の端に見え、ナマエはいつものスケッチブックではなく、小振りのナイフを両手に持って果敢に立ち向かう 隣で戦うペンギンが相手の鳩尾に蹴りを食らわせ、足取りが覚束無くなったところをすかさず海へ叩き込んでいるのを見て、ナマエは軽く感心した。



「おいナマエ!ボーっとするな!」
「……」



分かってる。 ナマエは頷き返し、刃こぼれし始めたナイフをベルトに収め次のカトラスを引き抜く。先兵として押し寄せてきている海兵達の波に紛れ、大佐級の男が飛び出してくる。一人は上の将校だろうか。海軍コートを棚引かせた強い眼差しの男は一点を見定め走り出す。その先にいるのは未だに一人で大勢を相手にしていた、ローだ




「…!」



危ないだろうか  ナマエの逡巡は、相手に隙を見せてしまった。海兵の銃剣がナマエの脇腹を貫き、一瞬の痛みに悶えたナマエはグラリと体勢を崩しかける。
何とか持ちこたえ構えていた剣を横に薙ぎ払った。ドサドサと海面に落ちて行く様を見ながら、血が滲み出てくる脇腹を手で押さえローの方へ視線を送る
…余裕、そうに見える さすがキャプテンと言ったところだろうか
たとえ本部の海軍でも、あの人にかかれば問題なんて無いのかもしれない



左から向かってきた海兵の攻撃を寸でで避け、がら空きの脇に拳をめり込ませる。
船への損傷はどうだろうかと合間に視線を配らせた。海軍からの砲弾の嵐が止んだところを見ると、海軍船に突撃していた仲間たちが砲撃手をやったのだろう。


なら自分は舵が無事かを見に行こう、 足を動かそうとしたナマエの目に、また飛び込んで来たのは大佐らしき男と将校の男を相手にするローと、



ローの作り出した『ROOM』外にいる狙撃兵が、背中からローを狙っている姿



「……!」




普段なら、それぐらいの事あのキャプテン殿はどうにでもしてしまう
しかしナマエも含め、ハートの海賊団クルーは全員、『疲労困憊』していた
今のコンディションでは、万が一 がある



深く思考はしなかった 気が付けば叫んでいたのだ





「 ロー船長!!危ない!!」

















「……まさかよ…、こんな勝ち?を迎えるとは思ってなかったぜおれ…」



甲板に横になったまま覚醒し切っている表情でそう呟くシャチの両足を持って引き摺りながら、同じく赤い顔のまま横になっていたペンギンの隣にまで運んだ
これでクルーの面々は全員だろうか、…ああ、あそこにまだ海兵が残っていた。早く追い出さなければ、今起き上がられると一網打尽にされてしまう



「………」



船室に戻り、自前のスケッチブックを取って来てから、マストに凭れかかっているローの元にタオルを渡しに行く
その顔は明確な熱と色を持っていて、ナマエが声をかけるのを少し躊躇うレベルだ


『具合は』
「……オカゲサマで無事だ」




ナマエの声は遂に人体兵器となってしまうんではないだろうか
クルーの誰もがそう思った。
でなければ、あんなに大勢いた海軍や自分たちをたった一声の下に沈めて興奮させる、なんて器用すぎることやろうと思っても不可能だ
しかもそれを当の本人は意識ぜすしてやっているのだからまた問題である



「……助けられたな、お前に」
「…。」


助けた内に、あれは入るのか
素直に功績を褒められたくない気持ちの方が勝っている


「……………それに、」
「?」
「お前の声で名前を呼ばれるのは、想像していたよりも気持ちがいい」



想像ってキャプテン、一体どんな想像を…。ダウンしていた者たちの中で、いち早く元に戻った者から順々に船の配置に戻る。海軍船はとっくに振り切っていたが、いつまた追いかけて来るかも分からない。もしかすれば、追いかけてくる理由がナマエになる可能性だって微粒子レベルで存在するかもしれないのだ。気をつけた方がいいぞナマエ お前の"男の性"を直に刺激するその低音ボイスは、あまり多勢の前で披露しない方がいい



「……おれも、ピンチになればナマエに名前呼んで貰えんのかな…」
「いや…それはよくない考えだぞペンギン」



「……」
『無事でよかった』



白紙のページに書かれた一言には、クルー全員、どうしても幸せになる気持ちを隠せない

ナマエはナマエが思っている以上に、この船の仲間たちに好かれているせいだ