20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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*本編以前

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「薔薇でいいかなぁ」
柔らかい響きが聞こえて、ドレークは「あぁ、いいんじゃないか?」と答える。花のことは何も分からないから、ナマエのチョイスに全任せしているのだ。ドレークには、ナマエが左右に持つ薔薇の違いでさえ分からない。どちらも同じ色に見えるし、同じ形に見える。第一、部屋の壁に飾る造花の花なんてどれを飾っても一緒だろうと、彼女が聞けばとんでもない!と怒ってしまいそうな事を内心で考えていた




「……あー、ドレーク今"どれも一緒だろ"とか考えてたでしょう」
「い、いや…そんな事思ってない」
「いいですよー別にー 恐竜さんにはお花のことは分からないですもんねー」
「…あぁその、だな…」



今日はドレークにとってのたまの休日だった。だが特にする事がなくて(それは毎回のことだったが)、何とはなしに幼馴染に電話を掛けてみれば「なら買い物に付き合ってもらえる?」とのお誘いがあったからこうして悪目立ちする花屋へと足を運んでいるに過ぎない。 この幼馴染からの誘いでなければ、絶対に来なかった場所だ。 不釣合いなのも何となく分かる。 以前、同僚のスモーカーとヒナが街へ共に出ていた姿を見たことがある。あれもきっと何かの借りがあって断れなかったクチだろう。今の自分と同じだ。 女と言うのは、たまに海賊以上に手強い存在である




「ナマエ、一人暮らしはどうだ? 何か困ったこととかないか」
「うーん、特にないかなぁ。 あ、重いテーブルとか荷物を一人で運ばないといけない時とかは辛いかも」
「………そうか、大変だな、」
「あのねぇドレーク そこは『おれを呼べばいつでも駆けつけてやるのに』ぐらい言わないと!モテませんよ〜そんなんじゃ〜」
「い、言おうかと思って、やめたんだ」
「どうしてやめるの!」
「は、恥ずかしい気分になった」
「まったくもうっ」




「そこのご夫婦さん。買いたい花は決まったかい?」と気の良さそうな老婆が声をかけてくる。ただの幼馴染の関係なのに、段飛ばしで夫婦扱いと来た。まだ、恋人になってもいないのに。 ドレークが返答に困っていると、ナマエは老婆の言葉を全く意に介していないのか、「このピンクの薔薇を三本いただけますか?」と購入を決めたらしい。
「はいよ」と手渡された薔薇をご満悦そうに眺めている「よし、じゃあ次は服よ!」「服!?まだ回るつもりだったのか」「当然!まだまだ明るい時分じゃないの」 服屋とはまた、ドレークに似合わない場所だ。 今日は思う存分連れ回されるのだろう。そして荷物持ちでもやらされるか?と思っていたのだが、どうもナマエはさっきから購入した物をドレークに渡さず自分で手に持っている。



「…荷物、おれが持とう」
「? いいわよ別に そんなに重くないから」
「…?だがいつもは沢山持たしていたじゃないか」
「そりゃあ、前まではね でも今のドレークに荷物持たせるのは、気が引けちゃうなぁ」



? なぜ今の自分はダメなのだろう

ナマエはまざりっけのない笑顔で疑問符を浮かべるドレークに教えた




「今のドレークは海軍将校様よ? 私みたいな一市民がコキ使わせて、それで不意に怪我とかさせちゃったら申し訳ないもん」
「そんなに柔じゃないんだが、ダメなのか?」
「うん、駄目ね 私の中のケジメよこれは」



…でも、いつまでもつケジメか分かんないけどね!重たくて重たくてしょうがなくなっちゃったら、『持って』って頼んじゃうかも



アハハ!と笑う幼馴染の姿は、我侭を言い強請って来ていた昔の姿とは全く違う
時間の流れとは凄いな ドレークは関心した。まさかこの幼馴染に、"気遣い"をされるなんて夢にも思っていなかった



「…なら、今日のおれはナマエの隣で何をしていればいいんだ?」
「意見を聞かせてくれたらいいのよ どっちがいい?って訊いたら、コッチがいいと思う。みたいにね」
「……さっきはその事についてお前に怒られた覚えがあるが」
「ドレークがきちんと答えてくれさえしたら、私だって怒らないわよ」




 じゃあ早速訊いちゃおうかな。コッチの服とコッチの服、どっちがいいと思う?





やはり、ドレークには二つとも同じに見えてしまうのだった