20万企画小説 | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -








今日も暗く陰鬱としたクライガナ島の朝
聞いたこともないような『ミュオンゲー』と鳴く鳥の囀りを聞きながら、ベッドから重たい体を起こした。3時に仕事が終わって、今が朝の7時 4時間しか睡眠が取れていない しかし、早く起きて朝食の用意をしないと ああ見えて朝は起きるのが早いゾロが空腹を訴えながら部屋に乗り込んで来るのだ

今日は確か、ペローナのリクエストでカンパーニュを作る予定だ
早速仕込みを始めないと、 寝間着を着替え、階下に下りれば、巨大リビングにある巨大テーブルに一人の影

どことなく静謐な空気を醸し出しているミホークだった




「おはようミホーク 今日は随分と早起き……」
「ナマエ、好きだ」
「………だな?」




えっと………は? 今 ミホーク何つったよ


『今朝は晴天だ』みたいなニュアンスでどえらい事を言われたような気がするが、多分ミホークの表情を見る限り俺の聞き間違いとかではないみたいだ。 真っ赤も真っ赤 茹蛸も負けを認めるレベルの色だ 一瞬、そちらの方へ大丈夫か?と言う意識が傾いた



「えー……と、何の罰ゲームだ?」
「…?罰ゲ…」
「それともアレか ちょっとした冗談? 日頃の感謝を言葉にしてみた〜とかって、アレだろ?」



――違うか? なるべくミホークの機嫌を損ねないような言い方で笑い飛ばしてやろうと思ったのに、ミホークはまあ潔く「違う 冗談などではない」なんて言ってくる始末 オイオイ 俺がお前さんの冗談にちゃんと取り合う懐の広い男であることは重々承知しているとは思うが、そんなジョークを言われたら流石に反応に困っちまうぞ


ミホークの脇を通り過ぎながら、腕まくりをしてキッチンへ入る。じっと背中を見つめられている気配はするが、生憎あまり構っていてやれる時間はないんだ



大方、ミホークも寝惚けているんだろう




「この前の"ありがとう"って言ってくれた時のようなニュアンスなんだろ? 安心しろ、俺もミホークが好きだぞ」
「…違うな そう言ってもらえるのは嬉しいが、どうもナマエとおれの言葉とでは意味が違う」
「違うか? 俺は、同じだと思うぞ」




ああそう言えば昨日の夜食のビーフシチューが残っていたんだった。朝はコレにもう一味付け加えて、カンパーニュのスープの代わりにメインディッシュにしようか。
一昨日調達してきた豚の肉もたんまり残っているし、細く切って焼いて、サラダと一緒に盛り付けて……



「……ナマエ、おれは、お前が好きだ」



…別に、無視をしているつもりじゃないんだが
尚も言い募って来たミホークに今度こそ俺は困惑する。そう何度も好意を伝えてくるような奴じゃないと思っているからだ。 この間の『ありがとう』でさえ、共に暮らし始めて5年目にしての快挙 口に出して言わずとも、俺とミホークの間柄なら伝わっていることの方が多いと思う

しかしミホークは 「違う」 と言う



「…なーにが違うと言うんだミホーク お前、やはり寝惚けてるんじゃないのか?」
「寝惚けてなぞいない ずっと、言おうと思っていたことだ」
「………お前のそれは、どういう意味の好きだ?」
「……、……」


ほら見ろ 言い淀んだじゃないか



「俺と"寝たい"って意味の好きなら、もっとよく考えてみろ」
「…!」
「お前のそれは、 "たまたま"だ」
「 "たまたま"…?」
「そう たまたまお前がこの城に辿りついて、たまたまこの城に居たのが俺で、利害が一致したお前の世話を看て来て、お前は俺に"尽くされてる"って言う想いを勘違いしてるだけだ」
「な…どう言う意味だナマエ」
「あー…上手く言えないんだけどよ、多分、 ミホークの言う"好き"ってぇのは、『誰でもいい好き』だ もしくは『家族愛』か」
「!」



大の大人の男が、同じく大の大人の男に抱くべき感情じゃあないだろ、ミホーク

城を空けることも多かったけど、長年一緒に暮らしてきたせいで湧いた"親愛"の情
ミホークほどの男でも、そんな勘違いを起こしてしまうものなんだな  ミホークは何も言わない。テーブルの上でギュっと拳を握り、唇を噛んで黙っている …少し言い過ぎたか? 珍しい感情をブツけられた、とちょっとばかし意固地に否定し過ぎたかもしれない



「あー……まあ、なミホーク このままペローナやゾロと一緒に暮らしてれば、直にアイツ等にも俺に向かって言ったような"好き"の感情を抱くことが出来るかもしれんぞ?」
「…………」
「二人とも、良い子たちだからな」



努めて明るく言えた筈 よしこれでこの話は終わりにしよう




end?





















いつもより静寂に包まれるキッチンとリビング
これで終わったと思っていたが、ミホークは再度口を開く


「……そんな筈はない」
「…何がだ」



「おれがナマエに抱くこの感情が、他の者にも抱くようなソレだとは思わない」
「ナマエはおれの心に温もりを与える」
「それは他者からでも可能かと言えば、それは在り得ん」
「ナマエはナマエ ナマエ以外では決してないことだ」



ミホークの言葉に目を見開き驚いているナマエは、手からポトリと包丁を取り落とす
ガランと音を立て、ナマエの足擦れ擦れに刺さったそれを一瞥したミホークは改めてナマエの目を真っ直ぐに見つめる

ナマエが ミホークのからだの中で一番好きな、鷹のような目をギラつかせ、




「お前は、おれを 根底から否定するつもりなのか」




『ミホークがナマエのことを好きだと言う想い』をナマエが『否定』すれば『ミホーク自身を否定することになる』と言う

何だそれは それはまるで、ミホーク お前が全身掛けて俺を好いていると言う意味に聞こえてしまうじゃないか


ジュラキュール・ミホークが虚言や冗談を言わない人間であることは恐らく誰よりも把握しているのがココにいるナマエだろう
現に、目の前の彼からそう言った空気は微塵も伝わってこない
気まぐれであるように見せて、何時も真っ直ぐに道を行く男の何を今否定出来ようか



「……………」



ナマエは身を屈め、取り落とした包丁を拾い取る

隠れた表情に、渇いた笑みが浮かんでいた




「………もう戻れないところまで、いつの間にか来ていたみたいだな」




――お互いに