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兆候はあっただろうか。
いや、たとえそんな物があったとしても、ニューゲートは気付けなかったと思う


今晩の夕食の席 ナマエが海で獲って来た海王類の肉を口いっぱいに頬張りながら、いつもより食が進んでいない父親を心配げにしていた
「食べねぇのか?親父」全部おれが食っちまうぞ。冗談のつもりだったが、ナマエは「あぁ、食いたいのなら食え」と言う。本当にどうしちまったんだよ。いつもなら、食事はサバイバルだなんだって言って、我先にって食っちまうだろ。小さい時からそうで、おれはいつも負けないように頑張って食らいついて……




「ニューゲート お前、独り立ちしろ」






「……あー、まあ、そうだな 確かにそろそろ…」
「黙って聞け ニューゲート」



普段からふざけた事をあまり言わない堅物で少し寡黙がちな親父が口を引き結んでいるときは、とても、とっても大事な話をしようとする時の癖だ



五歳の時に教えられたおれの"覇気"のこと
十歳の時に教わった長刀での戦い方
十三歳の時に聞かされたおれの出生、本当の親子じゃないこと
十六歳の時に伝えられた"我が子のように思っている。愛している"
その時と、同じ顔をしている。




「…俺は、そろそろ故郷に帰らなければならない」
「エルバフ……にか?」
「ああ 二人の頭も未だ戻らぬようだし、仲間たちからの強い要望でな。俺は帰って、故郷の為に生きなければならなくなった」
「…………」



なんとなく、親父が何を伝えたいのか分かってきた



「もう、お前と会うことはない」
「……!」



やっぱり

黙って聞け、と言われなければ声を大に反論してた筈だ。こう言うところを見越している親父は本当に凄いと思う



「ニューゲート お前、覇気をモノに出来たんだったな」
「……ああ 先週、辺りかな。それぐらいに…」
「その力を使いこなせる程に成長出来たのなら、お前は強い子だ。安心しろ」



もう傍らでお前を守ってやる必要もなくなったと言うわけだ。 ナマエはそう言うと、傍らに立てかけていた愛刀の長刀をニューゲートに手渡す
柄のところは何重にも布が巻き直されて、刃は何度も石で尖れ鋭さを保っている
ナマエがずっと使ってきていた得物だ



「これを お前にやろう」
「…いい、のか?」
「今のお前なら、俺以上にこれを使いこなせる筈だ。……まあ、少しばかり背丈に合っていないようだが これからニューゲートが成長すればいいだけの話だ」



バキン、と焚き火の中の薪が倒れた音がする





「お前が何になろうが、どんな人間になろうが、何処で何をしようが、それはお前の自由だ」
「だがな、"強くあれ" いつでも、だ。 そうでなければ、お前は俺の息子ではないからな」
「……出来るな? ニューゲート」



強い眼差しに、しっかりと頷き返す。よし、と満足気に 親父は笑ってくれた

今夜はもう眠れと言われた。 きっと、自分が眠っている間に親父は旅立ってしまうつもりなのだ。
頷きはしたけれど、理解もしたけれど、やはり理性はそれをとても寂しがる

「………親父、」
「ん?どうした」
「……今日だけ、今夜だけでいい。…近くで寝てもいいか」

ナマエはぱち、と瞬きを一回して小さく微笑を浮かべる

「……お前が小さなときは、何度も添い寝をしていたんだぞ」
「覚えてる。でも、最近は無かったじゃないか」
「当然だな。何歳だと思っている、お互い」
「そう言えば親父、何歳なんだ?」
「…さあな。巨人族の男は150を越えた辺りから年を数えるのをやめるんだ。――ほら、来い」



大きな掌を差し出された。遠慮もせずにその手に身体を摺り寄せる。
大きくて、無骨で、ガサガサしていて、土の匂いがする。ずっと近くから漂ってきていた、親父の匂いだ



「………おやすみ、親父」
「……ああ おやすみ、ニューゲート」



――いつもお前が、良い夢を見ていられることを 父は願っているぞ



低い声が聞こえてきて、ニューゲートは少しだけ、目元を水滴で濡らした。水滴はなかなか止まってくれない。 後から後から溢れてくるばかりで、 それは自分の父親への気持ちと似ているようだった