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トラファルガー・ローは至極純粋な愛を持ってナマエを愛している。
幼少期の美しすぎる思い出の中の彼の存在に支えられながら、ナマエだけを一生涯に唯一の人と決め、もう二度と会うことはないと思いながらも、彼以外の男に触れられることを拒否し続けていた。誰にも身体を許すつもりもないし、ましてや心を奪われる可能性も皆無。優しく笑いかけられる彼の笑顔を思い出しては何度も頬を染めて恋心に苛まれた日々もあった。何度も我慢に我慢を重ね、このままでは死ぬんじゃないかと焦がれ死にに恐怖することもあった。



だが彼女の願いは正に現実のものとして叶え得たのである。夢にまで焦がれたナマエとの再会。思い出の中の彼よりも年を重ね数段男らしくなったナマエの姿に動悸を早めながら、トラファルガー・ローは自身を上手く制御出来ずにいた。


長年培われ蓄積して行っていた"欲望"や"我慢"が爆発したのである。

それは、航海の途中の船上でのことだ










「ナマエとの子どもが欲しい」

「ぶ、ふはっ」



食事中の席で一体ローは何を言い出すんだ!
俺はテーブルに吹き散らかしてしまったスープを滴り落としながら、
さっきまで黙々と食事をしていたのに今は何故か至極純粋な顔をして俺を見つめて来ているローを問いただすべく、落ち着いて隣りに向き直った。



「……ロー、自分が何を言っているのかの意味は分かって…」
「る」
「そうか……では言おう。"駄目"だ」
「どうして?」
「ど、どうして…?そこから説明しなくてはいけないのか…!?」



最初のローの発言から水を打ったかのような静けさと、両親の葬式に立ち会っている親思いの息子のような暗さで沈んでいる同クルーの諸君らの視線が突き刺さっている。
ヒシヒシと感じるこの視線の意味は何だろうか。
いやそれよりもローはどうした、何故こんなことを言い出したんだ?



「我慢が出来なくなってきた」
「…何のだ…」
「ナマエが私の目の前に現れた時からヤバかったけど、今朝起きて隣りで眠るナマエのカオを見てたら欲望が爆発した」
「…ローが勝手に俺が寝ていたところへ侵入して来たんだがな…?」
「長年焦がれてた夢が現実になってるこの今が色々と処理出来なくて頭いたい。ナマエが現れてから痛むから、絶対にナマエのせい」
「……そうか」
「24年間の間ナマエに捧げる為に守ってきた私の処女を今すぐにナマエに奪って貰いたいから子ども産ませて」
「ちょっと待ってくれ!」



なぜそうなる!と叫ぼうとした俺の声は、急に立ち上がったクルー達の「そうだ!!」の声に掻き消される。
君たちはさっきまで随分と意気消沈していたはずなんだが、どうしてそんなにいきなり元気になれたんだ!



「ナマエさん!俺はキャプテンの言い分に全面的に賛同することにしました!」
「シャチ君、なぜだ…」
「キャプテンの処女云々の話は、本当のことばかりなんですナマエさん。俺らは、そんな頑張っていたキャプテンを知ってるんですよ」
「来る日も来る日も、会えるのかも分からぬ相手を想いながら女性の身体で己を守って来ておられたキャプテンの心は本物なのです」
「子どもの一人や二人、こさえちまえよナマエさん!」
「最初は何言い出すんだキャプテンと思ったけど、俺たち気が変わったんですって!」



船全体が一致団結し、グループ絡みで貶めようとして来ている。これは非常に危険な状況だ。前門のクルー大勢、後門のロー
この状況下で正常な思考を持っているのが、自分一人しかいないような気がして不安になって来た



「何で駄目なんだよナマエ 私のことが、嫌いなのか…?」
「そんな事では断じてない」
「そ…!そ、っか」

「キャプテン!そこで照れては話が進まねぇぞ!」

「あ、ぁそうだった。 おいナマエ、 駄目とか言う理由を聞かせろ。納得の行くものじゃないとこのまま問答無用で身体をバラバラにして連れて行くから」
「り、理由も何も、俺とローは恋人同士ですらないじゃないか」
「……え?」



唐突に、立場も立場なのに、我が子のように思っているローと子作りなど出来るものか。そう言うのはちゃんと、



「嫁入り前の娘があまりはしたない事を言うな。処女を守っていたと言うのはその、まあ、嬉しくないことはないが、そう言ったことはもう少し取るべき手段と段階を踏まえた後に執り行うべきでだな、そもそもの話、俺はローのことはまだ娘としか思えなくて…」




延々つらつらと語って述べるナマエの姿は真面目そのものだった。



訂正しよう。ここにいる全員−−−それはナマエも含め、誰一人としてまともな思考を出来ていないのだ



「……つまり、私とナマエが好き者同士になれば良いのか?」
「え? いや、まあ そうなる、か?」



はてさっきの自分は何を言っていただろうか。無我夢中で言葉にしていたせいで内容を覚えていない。が、ローが何だか嬉しそうにしているのは、多分気のせいではない



「分かった。じゃあナマエ 私を好きになって」
「……好きだとも、勿論」

「じゃなくて、私を一人の女として愛してよ」




ローが身を捩らせながら近付いて来た。
まだら模様の帽子の陰になった目が、妖艶に細められていて動揺する。こんなに、色のある目をしているのに、男に触れられたことがないだと?そんな事が有り得るのか

周りのクルー達は空気となり固唾を飲んで此方を凝視している。

俺も、ローから視線を外すことが出来ない。

娘のようだと思っていた女の子は、男が知らない内に女性になっていたらしい。
その変化に追いつけていない男は、ただ迫り来るその唇を受け止めながら、本能のままに喰らい付き返すしかなかった