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ちょっとやそっとの事では他人を信用出来なくなった男がいた。

それは身内であったり長年の友であったり剣を交じ合えた好敵手達であったり自分を匿うと言ってくれた宿屋の店主であったり。 信じた先から裏切られる。世は、時代は、世知辛い方向へと染まりきっている。とても生き辛い世の中だ。そんな世の中をこさえたのが男の兄であると思うとまた考えるところも違ってくる。

嫌いではなかった兄だが、その兄が送った追い風が作り出した大きな火のせいで弟である男の身が危ぶまれたのだ。







兄――ゴールド・ロジャーの血縁関係者は総じて皆殺しだった

年老いた父親は、病魔に侵され歩けなくなった母親を護ろうとしわがれた腕で武器を取り抵抗したが、大量の海軍の前に無惨にも斃れる

時同じくして、母親も身動きも取れない状況の前に成すすべなくせめてもの慈悲だと胸部を一突き

別の島で商人をやっていた親戚の男も店に踏み込んで来た海兵たちによって銃殺 大好きなお金の上に自分の血をぶちまけた

ほぼロジャーと関係はなかった商人の妻でさえも同じく射殺 死に顔が悪魔のようだったと語られる

その他、血の一滴程度の繋がりしかなかったような者達も残さず殺害された模様

華々しい大海賊時代の幕開けの裏側で行われた血腥い話


だが上記の彼らが死んだのは、無力だったからだとロジャーの実弟――ナマエは考えている。現に自分は生き延びていた。それは、彼に力があったからだ。
幼き日、海賊となり一人旅に出た兄の輝かしい背中を追って志した同じ道
いつか何処かの海で兄と再会した時、見劣りしない力を持っていたいと自分の腕を磨いてきたのが幸運をもたらした
追ってくる海軍たちの追撃から逃れ、過疎化が進みつつある島に身を隠していた。

ここで話は冒頭のことへ戻るが、 運良く生き延びたナマエは沢山の人間たちから裏切りを受ける。
追撃からの応援を頼みたいと、頼りにしていた友人はあろうことか剣を抜いて立ち塞がった。海賊ロジャーを嫌っていた奴だったが、よもや友をまでも憎むか、と決別を果たす
雨に降られ、風邪を引いていたナマエの為に宿の一室を提供してくれた宿の店主はその日の晩に近くを巡回していた海軍を呼びつけた。莫大な謝礼の前ではナマエの姿など札束に見えていたことだろう。
海を逃げ延びる隠匿生活の途中、懐かしい顔に会った。シキだ。兄の繋がりでよく因縁を吹っかけられていたのを思い出す。だが、その顔は以前のような覇気あるものではなかった。嘲笑を浮かべ、擦れ違うナマエを一瞥。無視。見ていないフリをされたらしい。それもナマエの胸に深く傷を負わせた。何故、自分がここまでの仕打ちを受けなければならないんだ、と。

それからナマエは、己を純粋に慕って来ていた部下たちを切り捨て、独りの航海を望み始める。誰にも、傍にいて貰いたくなどなかった。もしかすれば、可愛がってきた部下たちの中にも自分を裏切る者が出てくるかも知れない。そんな事がもしあってしまえば、今度こそ立ち直れなくなる。

自由に海を渡れなくとも良い。俺は静かに独りで過ごしたい。




だが、誠に遺憾であることだがそんなナマエの心内を知っていようとなかろうと関係あるものかとばかりに好意を押し付けてくる者がいる。
ナマエは、ほとほと困り果てていた。その者がとても酒臭く迫ってくるのだ。潔癖症なところがあるから、とてもきつい





「………シャンクス いい加減テメェの船に戻れ」
「何でだよナマエさん!こんなにイイ酒は二人で半分分けして飲むのが醍醐味でしょうらよ〜!」
「…呂律が回ってない。もう帰れ」
「嫌だ!」
「………………」



子どもか。 頬に押し付けられてくる酒瓶にウンザリしながら、ナマエはシャンクスの処遇を決めかねていた。兄であるロジャーの後をピヨピヨと付回していた雛も今では立派な四皇となったわけだが、昔と今と変わらないものはこの厚かましさだ。馴れ馴れしさ、とも言うがシャンクスの場合は厚かましさでいい。厚かましい、とても。



ロジャーが死んでナマエが隠匿生活を始めてからと言うもの、自分で海賊団を起こしたシャンクスは事あるごとにナマエに会いに来る。
勿論、ナマエの方も容易く見つけられるような場所にはいない。それなのにシャンクスは会いに来る。放浪している根無し草のナマエの元へ

そこがこの男の恐ろしいところだった。予測が全くつかない。
兄の奴はよく、こんな獅子を配下に置けたものだ



「つーれーねぇなーナマエさんよー 酒でも飲めば陽気になっれくれるらって思ったのによー」
「…鬱陶しい酔い方だなシャンクス 普段からこんなにベロベロになんのか」
「度数けっこうキツイ酒だしなー」



シャンクスの愛船であるレッドフォース号に見下ろされながら、ナマエの乗る小船で始まった一方的な酒盛りはどうにも終わりそうにない。シャンクスが帰りたがらないのは常だが、酔っ払われてしまえば扱いに困る。
不幸にも、シャンクスの見張り役でもあるベン・ベックマンは今日は加勢してくれないらしい。大方、ここへ来る前に船長自ら何らかのお達しを下したんだろう。「今日は向かえに来んな」とか「邪魔するなよ」とか、その辺りのことを



「………新世界の自分の領海に帰れ」
「あ、じゃあナマエさんも一緒に帰るか!」
「どうしてそうなる。四皇のお前なんぞと一緒にいたら悪目立ちしすぎるだろうが」
「おれがナマエさん守りますって」
「断ろう。いい迷惑だ」
「取り付く島もないなー」



はははは! 愉快に笑い声を上げるシャンクスにナマエは顔を顰める。まったく、こいつと来たら



 どうせ自分の船長がいなくなったから、代わりに俺の許を訪れるんだろうと邪推していた昔が懐かしい。

 全くそんなことはなかった。

シャンクスはただ単純に、ナマエのことを好いていた。
理由を挙げるとすれば、それは一目惚れで、羨望で、輝きで
 いつかの幼いナマエが兄の背中に見たような感情らしく、
むず痒い感情に苛まれる。
シャンクスのその気持ちが理解出来てしまうから、無碍にも出来ず強い拒否も出来ない。



「………、…」
「…そろそろ おれを信じてくれる気持ち、取り戻してくれたか?ナマエさん」
「……ふん 小僧が生意気言うんじゃない。俺に信用して貰おうなんざ100年早いわ」
「はは、それは流石におれ生きてられるかなぁ」
「…そこは死んでおけ。何歳生きるつもりだお前は」



これは予感だが そろそろシャンクスとならば、兄の昔話を肴にした酒宴が開けるかも知れないと思った。
だが、瓦解されるにはまだ足りない。 もう少し、この呑気な顔を黙って見ていたいのだ