20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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久しぶりの久しぶりに訪れたシャボンディ諸島
乗ってきた船を港に着け、地面から浮き上がってくるシャボンを避けながら市街地の方へ歩く。その後ろを付いて歩いていたゾロ、ペローナの二人は、まだ後ろで何やら言い争っていた。船の中にいた頃からずっとだから、えらく長く続いている争いだ。その内容は聞いていなかったから分からない。若いもんの喧嘩には首を突っ込まないでおこうとミホークと共に決めているのだ。





「それにしても、ミホークも来れば良かったのにな。まぁアイツが観光目的でシャボンディに来るなんてこと想像も出来んが!」
「…別に、総出で見送りなんて要らねーよ」



只でさえ幽霊女も一緒に来てんのによ。
最後だと言うのに、どこまでも可愛くなく素直でないゾロの姿に俺は笑った。一方のペローナは自分に文句を言われたとまた肩を怒らせている。「テメェー!なんだその言葉は!」「んだよ!」とまたもやキャンキャン口喧嘩を始めてしまったいつもの二人。 大概ペローナが勝ってしまう戦いだ。 まあ残念なことに、男は女に口では一生勝てないんだ。よく覚えとくんだなゾロ



「…で、今このシャボンディにゾロの仲間たちも集結してるんだろ? 一目見ておきたい気はするな」
「…あんまり大騒ぎにしねぇ方がいいに決まってる」
「だから探すなって? 酷いなゾロ〜誰がその服の解れを今まで直してやってたと…」
「…っ、ああ分かった!分かったから鬱陶しい顔すんな!」
「そうかありがとう」
「あっテメェ!」



嘘泣きすんな! おっさんの泣き真似に騙される男なんてゾロくらいのものだろう。
騙して悪かったと謝るでもなく、俺は何故か俄かに騒がしくなっている街並みを見渡した。大柄な海賊然とした男たちが何かの張り紙を見て言葉を交わしている。
「?」 疑問に思ったが、どうやらそれを見て気になったのは俺だけらしい。
ゾロはもう早速予定合流地へ行こうと足を速めている。
…っておい、ちょっと待てゾロ!



「あぁおい待てゾロ! ペローナ、悪いが一緒に付いて行ってやってくれ」
「えぇー!もうココまで連れて来たんだからいくらアイツだってそんくらい………」
「…………行けると思うか?」
「…………ああああっもう畜生!ばか!分かったよもう!」
「すまんなー!」



ざくざくざく

ぴたっ

くるり






「………じゃあなナマエ! い、今まであ、あ、ありがとな!」
「………おう! ペローナも元気で! またいつでも城に遊びに来いよ!」
「っ! …ケーキ用意してろよなぁ!ぜ、絶対だぞー!」



誕生日に贈ってあげた新しい傘をクルクルと回して、ペローナも緑色の背中を追って去って行った。
こら待てー!と言う声が聞こえて来て、二人の姿は雑踏の中に消え見えなくなった。


実は


元々ペローナともここで別れる予定だった。 と言うのも、頂上戦争で行方が知れなくなっていたゲッコー・モリアが住んでいた移動島、スリラーバークが最近とある海を漂流していたことが分かったのだ。ペローナの仲間たちの消息が分かるかもしれないから、行ってみる。とペローナが言い出したのはゾロの出発3日前のことで、ペローナはまだ城にいてくれるもんだとばかり思っていた俺はそれはもう大きなショックを受けた。その日の晩、あまりの意気消沈っぷりを見かねたミホークが慰めてくれたのも覚えている。いやまさか、一気に二人も出て行ってしまうなんて思ってなかったんだよ……。可愛い我が子の独り立ち…いや、預かっていた甥っ子を姉夫婦に返す時のあの感じに似ている。姉も甥っ子も俺にはいないが、なんとなく合っている筈だ。俺のモノではないモノが手元から無くなって行く感じが、………。



「……やばいな このまま独りでいるとやはり泣いてしまいそうだ」



せめて、泣くならミホークが傍にいる時に泣こう。
こんな、知り合いも誰もいないシャボンディで独り泣いているなど、恥ずかしすぎて死ねるかもしれない。












「………で 碌に観光もせず直ぐに帰って来たのか」
「だってよぉ…!! ゾロとペローナの背中思い出すだけで涙が止まらん…!」
「……ほら」
「あぁずまん゛…」



ミホークが渡してくれたタオルで涙と鼻水を拭い取って、話題は今日のハイライトだ。
テーブルの上に突っ伏して泣く俺を見て、やれやれと首を振ったミホークは「そう言えば、麦わらの一味に会いたいと言っていたな。会えたのか?」と話題を変えようと気を遣ってくれた。 そのさりげない優しさにやっぱり泣きそうになりながらも、島でのことを伝えようと俺はガラガラ声を出して話し出す。ミホークはワインの代わりにコップに水を汲んで、俺の話を聴講する姿勢を取った。




「諦めかけたんだがやはり一目ぐらい見ようかと思ってさ……とりあえず酒場に行ってみたんだ。 そしたらそこの酒場に麦わらの一味、って名乗る海賊たちがドンピシャでいてよ、 早速会えたじゃないか!って喜んでたんだが…よくよく見てみると、顔がどう好意的に見てもお世辞を使ってもミホークが見せてくれた手配書の顔とは別人のそれなんだよ。 しかも、奴らの仲間の『ロロノア・ゾロ』が、俺がさっき見送ったゾロじゃなかったんだぞどう思う。チビだし腹は出てるし顔も不細工でちっともゾロに似てないんだ! 小物臭かったから近付いてシバいてやろうかと思ったんだがな、それよりも早くに何でか酒場の上から落雷が降って来てよ。咄嗟に避けて直撃は免れたんだが今度は妙な植物に足を取られて、顔面を強かに打ちつけた。そんな俺の頭上を若い男女の二人が悠々と歩いて行く姿を見て何となくあの二人がコレやったんだろうなって思ってな……もう帰って来たんだそっから。いいやと思って。またどこかで活躍してる話を聞けるだけで充分だろって…」

「妥協したわけか」

「…………そうなる」




でもあの男女の二人組み…オレンジ色の髪の女と黒髪の男の後姿、あれはどうも相当の手だれっぽかったんだが、どこの誰だったんだ…。  ………その二人が、本物の麦わらの一味の者達なのではないのか?  ………あ!!!そう言われてみれば確かにそんな気がするぞ!?ま、まさか『泥棒猫』と『ソゲキング』か!?ゾロの言ってた!ペローナが怖がってた!  …さァな  あーーもう確信したぞ。あの子達はゾロのお仲間だ。しまった……挨拶ぐらいすれば良かったか……  何の挨拶だ…



「…もう過ぎたことだ。いつまでも沈むでない」
「……おー………」
「それよりも早く飯を作ってくれ。腹が減った」
「……………そうか、そう言えば。また今日から俺とお前の二人きりになるな」
「……………………あ、ぁ」



そうだ今日からは。
広い城の中で日夜迷子になってしまうゾロを探し回ることも
我侭ばかり言って、ポルターガイストで困らせてくるペローナも
四人で食卓を囲むことも、もうなくなってしまったんだ


「………」
ミホークにもう落ち込むなと言われたが、やはり物寂しい思いは拭えない。
ただでさえ大きな城だ。 戦争以前の様子を思い出したようで、楽しかったんだ。

だが、俺も子どもではない。40過ぎたオッサンだ。いつまでも、ウダウダとしているわけにもいかない


俺にはまだ、ミホークがいてくれている。
こんなに心強いこともないものだ




「 はははっ そうか、そうだな」
「…?」
「よし! また二人きりの生活に戻ったのを記念して、今日はミホークの好きな物でテーブルを一杯にしてやろう!」
「……急に立ち直ったみたいだな」
「ああ、何だか楽しい気分だ。 おいミホーク、『おれはお腹がペコペコですナマエ 早く美味しい料理を作ってください』って言ってみろ」
「………何故そのような事をおれが言わねばならんのだ」
「いいじゃないか。俺以外誰も聞いてる者はおらんぞ」
「誰が言うか」
「ペコペコって言えミホーク」
「ナマエ、酔っ払ってるんじゃないだろうな」
「酔ってない、酔ってない」
「……酒の匂いがするぞ。船の中で飲んだだろうナマエ」
「あー?そう言えば酔い止めに一本飲んだ気ぃするなー。ははは、ミホーク ミホーク」
「…っ、落ち着け、ナマエ」




うわ言のように名前を呟いて、
「うるさい。静かにしろ」と返してくれる人間が傍にいるのは実に良い