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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「おいペンギン、少し話に付き合え」
「……断る選択肢は?」
「ない。  ――シャチあいつ、めんどくさい。今日の朝なんだけどよ、」



ペンギンにとっては面倒くさいのはナマエも変わらない。いつも不満から入るナマエの愚痴を聞く身にもなってもらいたいものだ。仲間として心のケアになれるなら付き合うのだが、ナマエは恋人であるシャチへの鬱憤を吐き出せるだけ吐き出してもちっともスッキリしやがらないのだ。まだ言い足りない、と言うわけじゃなく、何を何回言ってもモヤモヤとしたモノが残るのだと言う。そんなもん当事者じゃないのに知るか、ペンギンは今日も頬杖片手に受け流し気味でナマエの話を聞いた。

事の始まりは今日の朝で、原因は昨日の夜に遡る









「ナマエ、どうして昨日部屋に戻って来なかったんだよ」
「……あぁ?」



藪から棒に何を言うか。 ナマエの着替えの手を遮って、シャチはサングラスの奥からきつく睨みつけてきた。そんな風に睨まれる覚えもなければ、詰問口調で来られる理由も分からない。まずそこに苛々を覚えながらも、ナマエは極めて穏やかな声と言葉で問い返すことにした。



「……仰られてる意味が、よく分からないんだが シャチさん?」
「お前、大部屋で寝たのか」
「…そうだけど、何だよ」
「だから酒飲みは嫌なんだ」



会話が成り立ってるように見せかけてイマイチ繋がっていない。
確かに昨日、ナマエは割り振られている自分の寝泊りする部屋に帰っていない。昨日は別の大部屋のクルー達と一緒にトランプに興じていて、勝負に連戦して気分良く酒を飲んで盛り上がっていたのだ。気が付けば皆酔い潰れていて、ならばとナマエもその部屋で一晩を明かすことにした。他の海賊船がどうなのかは知らないが、ハートの海賊船は他部屋への移動を禁止していない。ナマエが痛む頭を押さえながら、本来過ごす大部屋に朝早くに戻って来たからと言って、船長船員各位からお叱りを受けることはないのだ。
なのに、汗ばんでいたツナギを着替えていたナマエの許に突如としてやって来たシャチは冒頭の様子のまま、『不機嫌です』と言う感情を隠そうともしていない。



「昨日、おれナマエの部屋でずっと待ってたんだけど」
「…あ?んな約束なんかしてたっけか」
「…………してない、けど、普通恋人が部屋で待ってたんならそれを察して戻って来るのが片割れの務めだろ!」
「…ちょっと待て、お前 自分がどんだけ理不尽なこと言ってんのか自覚してるか?」
「う、うっせぇ! とにかく、ナマエはおれを一晩放置して他の奴と酒飲んで遊んで寝たんだ!これは完っ全なる、浮気だ!!」
「…あのな」



何を言ってるんだかこのグラサン君は。 この分だとやはり理不尽さを自覚なんてしていない。我をこのまま貫き通そうとしている。 シャチの"こう言うところ"は前から知ってはいたが、今日のはまた輪にかけて面倒くさい。キャスケット帽の下の顔はあからさまに怒っているし、 今まで成り行きを見守っていた同室のクルー達の視線にもそろそろ耐え切れなくなって、ナマエも我慢が出来なくなった。言われっぱなしは好きじゃないし、何よりやはり理由が理由だ。理不尽過ぎる。



「…うるせぇなシャチ 束縛野郎なとこもいい加減にしねぇと俺も怒っぞ」
「はぁ?逆ギレすんのかよナマエ」
「キレるも何も、俺は何も間違ったことをしたと思わない。昨日は楽しく他の奴らと遊べたんだ」
「楽しく…!? おまえ、んなことを直球で恋人に教えてくるとかどんな神経してんだよ!!」
「…そんなに吠えんだったら、大人しく部屋で待ってずに探しに来たら良かっただろ。んでシャチも混ざって来れば一緒にトランプしたのに」
「だ、だってよ…!おれが探しに出た時にナマエが帰って来て擦れ違いになったら嫌だったから…」
「………それで大人しくずっと待ってたのか。 …シャチ、お前」



バカにも程があるだろ。 ナマエに言われた言葉にシャチは激しく食いついた。バカったぁ何だバカとはぁ!耳元で最大限ボリュームで叫ばれて耳が痛い。戸口の前にシャチが立っているせいでその声は外の廊下まで響いているし、早くこの空間から逃げ出したいと思っているであろうクルーの足止めもしていて、注目を集めて仕方がない。



「…とにかく、あまり馬鹿馬鹿しいことでそうキャンキャン吠え立てるな。うるさいし、朝っぱらなんだぞ今は。迷惑考えろ」
「………んだよナマエのバッカ野郎が…! もーー謝ったって許さねェ!ナマエみたいに交友関係広い奴はこれだから!…ああもうこれだから!!」



最終的に言い返す言葉が無くなったシャチは捨て台詞らしい棄て台詞も残さないまま部屋を出て行った。しかし直ぐにまた戻って来て戸口の向こう側から「どうせこの後でペンギンに話すつもりなんだろ!ばーか!ばか!ばか死ね!」そして直ぐにまたいなくなる。シャチの悪口のレパートリーの少なさには脱帽だ。


「おいナマエ、シャチはお前と喧嘩するといっつもあんな感じなのか?」
同室のクルーが話しかけて来る。お疲れさん…と言われ苦笑を返し、
「しょうがない。あいつはこの前まで童貞だったから」と言えば、そいつは形容しがたい顔になった。









「………で、想像されてる通りおれのトコに来てんじゃないか」
「しょうがないだろうが。俺の目の前を歩いてたのが悪い。 第一ペンギンだって昨日トランプ一緒にやった仲だろ?少しは庇えよ俺を」
「断る」



一通り話し終えたナマエは幾分顔がスッキリしている。おや珍しいことだ。今日は、言い足りない と言う顔をしていない。いつもならまだもう少し内容を話しても満足した顔をしないのに。



「…?そう言えば、ナマエはどこへ行こうとしてたんだ?お前の持ち場はこっち方面じゃないだろ?」
「シャチの部屋に行こうと思ってな」
「え なんで」
「?なんでって、仲直りしにだろ」
「 はぁ?仲直り? お前からか?いや、お前らがか?」


ナマエとシャチの二人は基本的に"仲直り"をしない。男同士ではまあよくある事だが、決定的な言葉を交わさずともいつの間にかまた自然に戻って会話をしたり過ごすことが多いと言うのに、どうして今になって何故仲直りをしようとするのか、その意図が全く掴めない
だがナマエの方はお前こそ何を言うか?と目を瞬かせている。
その顔が体格に合わず子どもらしく見えてペンギンは苦笑った



「いやな、今日はあまりに理不尽に怒られたから少しは仕返しがしたいんだ。だから、仲直り」
「……仕返しは仲直りとは言わないと思うぞ、おれ」
「いいんだよ。どうせ今日は島影も見えねぇし海も穏やかなんだ。アイツの部屋で俺が待ってたら、帰って来たあいつは驚くだろ?」
「…それ、仕返しになってんのか?」
「まだやる事はあるんだがな、これ以上は口に出せんことだ」
「もしかして、えろいことか」
「えろいことだ。明日のあいつを立たせなくしてやろうと思う」
「おいおい…程ほどにしといてやれよー」



シャチがお前に童貞奪われたーって言ってた時も、まったく使い物にならなかったんだぞ、あいつ。 と言えば、ナマエは楽しそうに笑った。相変わらず人の悪い笑みだ。笑い顔だけで言うなら、こいつの極悪さは船長にも勝るとも劣らない。
面倒くさい性格なんだあいつ、とは言っていても、結局のところナマエもシャチを溺愛しているのだから手に負えない。バカ二人は他所で幸せになってもらうべきだ。



「…じゃあ、おれも手ぇ貸してやるよ」
「?なににだ?」
「シャチの仕事を手伝って、なるべく部屋に戻らすよう手配する」
「おぉ、それはいい」



にやにやにや 悪い顔をしたナマエと、負けないぐらい悪い顔をしているペンギンの二人を 船内を歩いていたローが目にして、「ああ、またあいつ等妙なこと考えてやがる」と眉を顰めた。 クルー同士何をやってもイイが、のんびり立ち話は頂けねぇなあ?



「おい働けお前ら ペンギンは甲板掃除!ナマエは見張り!」


「…あぁ、仕事を入れられてしまった」
「残念だなナマエ」
「まあ夜に時間を変えるさ」
「二人とも、返事はどうした」
『イエッサァ キャプテン!』