「やぁおはようメアリー、アンジェリカ、クリスティアーナ、エリザベス、ヒルダ、イサドラ、リリアン、リオノーラ、マドリーン、メレディス、えーとその他諸君」
名前を呼ぶのが途中で面倒になった。
巨大地下水槽の中で悠々と泳ぎまわっているバナナワニ達に朝食の肉を与え、梯子を伝って地上に出る。
水分を含んで重くなったズボンを履き替えて、
さぁ朝御飯の仕度だと腕を捲くれば廊下の曲がり角からナマエにとっての愛しの君が姿を現した
「やあやあおはようクロコダイル 朝のお目覚めは如何かな? お腹の空きようはどうだい? 顔は洗ったかな?可愛いお顔が未だ眠たいと言っているようだよ」
「………全体的にうるせぇから黙れナマエ」
「おっとこれはすまない」
姿を見せたクロコダイルはまだ寝間着のままだった。寝室で目覚め、身支度を整えに洗面室へ向かう途中だったとしても、彼がこの廊下を選んで歩くのは間違っている。
こちらの道へ通じるのは、バナナワニの飼育通路だけだ。巨大な透明の水槽の中で飼われているバナナワニへ餌をやる目的の為だけに作られた巨大な穴があるだけで、起き抜けのクロコダイルが向かうべき場所としては不釣合いである。
「……もしかして、寝惚けていたのかな?クロコダイル」
「……………………」
「すまない、図星だったようだね もうこれ以上からかうのは止すから、そう睨まないでくれ給え」
愛しい君に睨まれたとあっちゃあ私の心臓が哀しい哀しいと泣くものでね。
おどけた調子でそう言ったナマエはクロコダイルの肩に手を置いて回れ右をさせてやる。彼が寝惚けてこんな場所へまで来ていたと言う事実は如何にかせねばなるまい。寝惚けてらしくない事をしてしまうほど、彼が疲れていたと言うことだ。彼の世話係りとして迂闊であった。もう少し体調の変化に気付いてやるべきだった。
「あぁクロコダイル そこに段差があるから気をつけて歩くんだよ」
「………そんぐれぇ見えてる」
「見えてるのと注意するのとではまた別問題さ。 ほうら食堂へ到着だよ。すぐに朝食を用意するから、大人しく座って待っているんだ」
「…………」
言葉通り素直に席に着いたクロコダイルは、大きな食卓の上に並べて置かれているナマエが仕分けておいた今朝の新聞や報告書を片っ端から読み始めた。無表情であったり、苦々しげな顔をしたりと表情を変え、その一連の内容がクロコダイルにとってあまり良い物ではなかったことを窺わせる。
そんなクロコダイルの様子を横目で見ながら、ナマエは最近腰痛を悩ませている腰を屈めながらキッチンの下の棚を開いてそこからワインを取り出す。
朝の目覚めにも程良く喉を潤わす特注のワインだ。これを出せば、主人の機嫌も少しは損なわずに済むだろう
「さぁお上がりクロコダイル」
「………あぁ」
「そっちの皿は加熱し立てで火傷するかもしれないから後回しにすると良い。まず此方のサラダの方から食べてみてくれないか。あぁ、私が取り分けるよ、そのまま動かないで結構だ」
クロコダイルがやろうとしている事に先回りしてやっておく それがナマエの仕事だ。
彼が何をしてもらいたがっているか、何をしようとしているか なんて手に取るように分かってしまう。伊達に彼が小さな頃から傍仕えとして人生の大半を共にしていない。
ナマエの中でクロコダイルはまだ子どもも同然で、護るべき庇護の対象だ
「今日は1300時からミス・オールサンデーがいらっしゃるとの連絡があったよクロコダイル」
「…そうか、どうせあの女のことだ また何処かの島で社員の後始末でも付けた報告だろうさ」
「そうかな 吉報だといいね、クロコダイル」
「フン …………茶の代わりを注げ、ナマエ」
「畏まりまして」
角砂糖ではなくクリープを入れるのがお好みである
そんなところが、可愛いなぁ と、ナマエは双眸を柔らかく細めた