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大将サカズキの私室に報告書を渡しに行って帰って来た海兵の顔が青褪めていた。
ふらふらと足取りは覚束無く、左右の目があちらこちらへと虚空を彷徨っている。
「おれは…夢を見てたのか…?」と不吉な言葉を残して、そのまま休憩室へと消えて行く。
後に残された他の海兵達はお互いに顔を見合わせ、一体あいつに何が起きたんだと身体を震わせた。ただ、"報告書を届けに行った"だけで、どうしてあんなに疲弊していたんだろう。
そして次に報告書の作成が終わった海兵が、恐怖に蝕まれそうになっている思考を振りほどき「い、行って来る」と同僚に声をかけた。「い、行って来い」としか言えない。生半可な応援など無意味だろう。サカズキの部屋で今一体何が起きているのかなど、一介の兵士である者に悟ることなど不可能だ。









「し、失礼しま〜す……」



二分ほど躊躇ってかけた声は間違いなく聞かれていれば叱責が飛んでくるような間延びさだった。だが中から返って来た声は部屋の主であるサカズキ大将ではなく、低いながらもどこか柔らかさを含んだ声音だった。「どうぞ、入りなさい」 はて、この声の持ち主に、海兵は覚えが無い。本部に着任してまだ日が浅いせいで、まだ知らない上司の方がいらっしゃったのだろうか。だとしても、先ほどの顔を青褪めさせていた同僚の説明付けにはならない。
意を決して扉を開く。真っ先に目に飛び込んで来たのは、大将サカズキの手によって綺麗に整えられた大量の盆栽や大量の観葉植物の鉢々。戦場での過激な性格とは裏腹に、自然をこよなく愛するあの方に相応しい部屋だ。
鉢植えたちを倒さないよう気をつけて進みながら、「先日の哨戒任務の報告書を持って参りました!」と声を上げれば、先ほど聞こえた低い声が「あぁ、此方へ来なさい」と海兵を声で促す。その後に小さく、「ほら、またいらしたようだぞ。起きなさい」と聞こえた。一体どう言うことだろうか、と首を傾げつつ、声に導かれながらどんどん奥へと歩を進める。

行き着いた先は、サカズキの部屋の中の更に奥、休憩室だった。
他の空間から遮断するように並べられている衝立を潜れば、



「やあ、ご苦労様」


「え……? あ、……は…?」




簡素ながらも疲労回復の為に考えられた設計で設えられている白いベッドの上に、二人の人影

一人は今、労いの言葉を掛けてくれた 初老、に見える年老いた男
海軍コートを肩に掛け、その下は黒のタンクトップにスーツズボンと不釣合いな格好をしている。
タンクトップから覗く筋肉が隆々としていて、初老とは言ったが全く年齢を感じさせない身体をしている。そしてその表情もとても穏やかで、白色が目立つ口元の髭がより一層その人の笑みを際立たせていた



そしてもう一人の人影は もちろん部屋の主である大将サカズキその人である


だが、



「(……ひ、……ひざまくらぁ…!?)」




海兵はその瞬間に全てを悟った。何故同僚があのように顔を青褪めさせていたのかを。
全て、この目の前の光景が物語っているのだ。
信じがたき、目を疑うべき光景が



「すまない。サカズキは今疲れて眠っているんだ。先ほどの彼と同じように、書類は表の彼の机の上に置いていてやってくれないか?」



初老の男からつらつらと述べられる耳に心地好い声はちゃんと海兵の耳に届いてはいるのだが、脳みそがそれを全く処理しようとしない。
目線はずっと、初老の男の膝の上に頭を乗せ背を向けたままのサカズキに向けられている。


なんだ、あれは  何ですか それは

駄目だ。絶対に訊くな。訊いてはいけないことだぞおれ!



「りょ、了解…いたしました……」

「ああ。ご苦労。もう戻り給え」

「は、はい…!」



脱兎の如く。 その後の海兵の状態だ。もうどうやって戸口まで出て行ったのか覚えていない。何とか植木鉢の波を抜けて、廊下に出た時、噴出してきたのは大量の汗と悪寒だ



「…………やっべぇモン、見ちまった………」



半裸の海軍大将サカズキが、男に膝枕をされていた


この事実だけでも相当なものだが、目に飛び込んで来た情報はそれだけではなかった。



「………………サカズキ殿の首もとにあったアレ、」



ぜったい キスマだった










これでやっと静かになっただろうか。
ナマエは体裁を保つ為に羽織っていただけの海軍コートをまた脱いで、今の今まで狸寝入りを決め込んでいたサカズキの身体を後ろから抱きしめるようにしてベッドの上に寝転んだ



「もう居なくなったぞ、サカ」
「…………」


ぐったりと身体を弛緩させきっているサカズキは返事をするのも今は億劫らしい。
ナマエの大きな胸に背中を預け、黙ったままだ
それでも、ナマエは今のこの状況を楽しんでいた。
長期の任務から帰還してみればサカズキの元帥着任が決まっていた時は驚いたものだが、
こうして自分の腕の中で大人しくする様子は出発前の昔とちっとも変わっていない



「……あと10分だけじゃ」



あと10分だけ、このままでいる


サカズキの言葉にナマエは頷いた。「サカがそう言うのなら、俺は一向に構わないとも」そもそも予定されていたサカズキの仮眠の時間を既に30分オーバーしているのだ。行為に及んでいる最中は時間など気にかけない身としては、まだ許容の範囲内だろう



「…夜にも会いに来よう」
「………あぁ」
「その時にまた、サカを甘やかさせて貰うとするか」
「……………」



こくりと頷かれた首筋に唇を落としてから、ナマエは目を閉じた。


あと、8分と15秒