本を海に投げ捨てた
「…つまんねぇ」
ぼちゃんと音を立て、海面に消えて行く一冊の本を見送る。
とても面白くない内容だった。どこかの国のどこかの思想家がドヤ顔で書き連ねた「悪魔の実の能力者は神の御心から外れた異端者たちとなる」なんて何とも神様万歳思考の塊
正直言って、何故買ったのかを後悔した。表紙と題名だけで適当に選んでしまった過去の自分の行動を恥じる。
なーにが「神の御心から外れた異端者たち」だ ばかか
「ナマエ そこで何をしていた?」
「…あぁドレークか 別に。意見の相違した相手にお別れをしてただけだ」
「?」
後からやって来たドレークは、今俺が船縁から本を海へ棄てたことに気が付かなかったようだ。どうせドレークのことだ。「書かれている内容が自分の考えと合致しなかったからと言って、何も海に棄てることないだろう」とか言い出したはず。
そりゃあ俺だって、こうもホイホイ買った本を棄てるなんてこと、本来はしないんだぜ。
でもな
「お前の事を逸れ者扱いするのだけは、許せねぇよなあ やっぱ」
「…それは その……………」
「あぁ…いや、そうだけど、そうじゃないって。そう暗い顔すんなよ」
海軍からの逸れ者、って意味でお前を詰ったわけじゃない。
そう言えば、ドレークはほんの少し口元を緩めて、「分かってる。少し、とぼけてみただけだ。ナマエがそんな事を言うような奴でないことは、おれが一番…」と不自然に言葉を切った
「一番? なんだドレーク その先を聞かせてくれねぇのか?」
「い、いや……その………いちば、ん…」
「ん?」
「……よく、知っているから」
「 はは、よく出来ました、ドレーク」
ドレークは遠慮しいだからな。
自分が間違いなく「俺の一番」であると思っているくせに、それを口にするのは憚られてしまう、恥ずかしがりやで
勿論そんなのは、この俺だって同意見だって言うのに
「――お前は、異端者じゃないからな」
「え…?」
「どんな暗い場所だろうが、世界の果てだろうが、俺はドレークを孤独にさせない為にずっと傍にいる」
そう決めてあるんだ。 そう伝えると、ドレークは目を見開いて顔を赤らめた。「…何か、変じゃないか?ナマエ どうして突然そんな事を言い出すんだ」と言われても、ドレークに上手く説明出来ない。
あのチンケな本を読んで、改めて悪魔の実の能力者ってのは、色々"おかしい"って事を再認識させられただけなのだから
「……おれとて、同じ気持ちだ」
「ん?」
「おれだって、誰よりもまず、ナマエの傍にいたいんだ」
赤い顔を俯けさせて、ようやっと言えた言葉なんだろう。
ドレークの頑張りとその確かな熱を感じながら、優しくその頭を撫でつけた
「…なら、俺たちはやはり永遠に共にいた方がお互いの為なようだな」
「……! ……ああ…!」
「あれ、プロポーズなのかな」
「さあ、プロポーズなんじゃないか?」
「うん、プロポーズだよなあ」
甲板掃除をしていたクルー達はモップ片手に溜息を吐いた。
掃除をクルーに任せ、サボっている船長とその補佐を指摘してやろうと考えたが、やめておこう。
きっと、双方に思うところがあるのだ。
日陰者である者同士にしか分からぬ、何かが