20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「この戦いが終わったら、マルコを俺の王国へ招待しよう」


砲弾を受けたマストがびしびしと揺れる振動に耐えていたこのタイミングで言うことか。新世界にのさばってる海賊たちを侮るなって日頃あれだけ口を酸っぱくして言ってるのに、いつも飄々としているナマエはこんな時でもゴーイングマイウェイな性格を貫き通している。 横から向かってきた海賊を蹴り飛ばして、マルコからの返事をワクワクと待っているナマエにしょうがなく付き合うことにした。


「もう滅亡してるとか、言ってなかったか?」
「俺の生まれ育った国を愛した人に見られるなんてこれ嬉し恥ずかしときめき」
「おい、ときめいてないで横からの砲弾に注意しろよい」
「母上と父上とじいやにばあやと乳母やに料理長と兵団長に庭師とマルコを紹介したい人たちは沢山いるんだ」
「いすぎだよい」
「安心しろ!全員物言わぬ石の中だから!」




ナマエの話はどこまで鵜呑みにすればいいのか分からない。平素から冗談とも嘘ともジョークとも取れることばかり言ってマルコや他の者達をからかうのが常な男だ。自分が「今は滅んだ某王国の王子」であると言うこともどこまで本当なのやら。王子なら王子として漂ってくるべき気品とかがナマエからは微塵も感じられないのだ。「マルコは王子の俺に見初められたから次期王妃になるな」とかくだらない事を言ってたが、そもそも「ナマエが王子ってタマかよい」としか言えない。イイ歳したおっさん同士が恋仲になって愛し合うのは世の人の情と置いておくとしても、三十路を過ぎた王子なんて薄ら寒いにも程がある。



「むぅ 釣れぬなぁマルコ もっと俺の話に耳を傾けてくれてもいいじゃないか」
「…だから、場合が場合なんだよい!この海賊たちやっつけたら幾らでも話聞いてやる!」
「そーうか、こやつ等が俺とマルコのラブ会話を邪魔しておるんだな?不届き者めがー!」
「さっきからそう言って……ってああったく!」



また無茶な戦いをする! 相手を挑発して激昂させてから戦わないと楽しくない!とか言ってる場合じゃないんだぞあのバカ!あの馬鹿!

マルコは腕を青い炎の翼に変え、ナマエが突撃して行った相手方の船へと自身も飛び込んで行った。


その一部始終を見ていたイゾウはふと思う。
「……カーチャンと手のかかる息子の関係だろ、あれ」
本人たちが聞けば、二重三重の意味で怒ってしまいそうなことだった









「ナマエ 何かおれに言わなきゃならねぇ事あるよな?」
「誠に申し訳なかった 俺の財産を全てマルコに譲ろう」
「…だから、そう言うのは目の前に持って証明してみせろって……ったく」



頭に包帯を巻いた怪我人に怒鳴ってやる程の話じゃない。折角の色男っぷりが泣いてるぞ、と包帯姿を茶化して言えばナマエは怒るでもなく笑っていた。楽しそうだ。大体、いつもナマエはこんな調子で、マルコの方も大概は微笑を浮かべてるのだが


ナマエが、「自分が過去に滅亡した某王国の王子」だと言い始めたのは、今よりほんのちょっと前のこと。海賊たちの襲撃を受けて、政府の手によって消された歴史を持つ王国 妄想を言うにしたって、わざわざそんなチョイスすることないだろとマルコは半分本気半分諦めで聞いていた


ナマエの言うその王国での話はいつも、
ナマエの家族親類身内友人知人の全員が既に死んでいて
莫大な金や宝や船を保有して、豊かな国政を敷いていたらしくて
王位は世襲制で第一王子のナマエが王位を継ぐことはほぼ確定していたらしくて
その国の国色が「青」で、青は神秘の象徴とされているらしくて
マルコを一目見て惚れたナマエが是非妃に!と迫ったりもして

な、どこまで本気なんだろうって、思うだろう



「失敬だな 全部本当だぞと言っている」
「へーへー… まあナマエがおれの王子サマなことは別に冗談って思ってないよい」
「フハハン、当然のことだ!マルコ以上に、王子たる俺に相応しい妃もいないだろうからな!」
「…………」



自分がこっ恥ずかしいことを言ってるなどナマエは露ほども思っていない。
確かに気品はないが、マルコの想像する「王子像」に相応しい"傲慢"っぷりはちゃんと持っている



「……そう言えば、"この戦いが終わったら、マルコを俺の王国へ招待"してくれるんだったよな?」
「ああ勿論だ。嘘偽りなぞ俺は言わないからな。すぐにでも式を開きたいぐらいなんだぞ」
「……ま、楽しみに待ってるよい」
「ああ、そうしておけ!」



ナマエはマルコの身体を抱きしめた。ぎゅうぎゅうと強く胸に抱き込まれ、マルコの鼻が押し潰されてしまいそうだ。「ぐむむ」とくぐもった声しか出せず、そんなマルコを見てナマエは楽しそうにまた笑い、月に向かって声を上げた



「――こんなにマルコが好きで良いのだろうか!!」



その声が他の者の耳にも届き、辺りにいた者たちはすぐにナマエとマルコを揶揄いの対象にした。


――よっ、ご両人!


マルコは恥ずかしくなってナマエの腕から上に顔を上げられないでいる