時たま誤解されがちだが、ナマエとパウリーの二人の仲の良さはガレーラ1…いやウォーターセブン随一と言っても過言ではない。幼い頃から今日に至るまで離別らしい離別も、絶縁の兆しもなかったのは二人の相性と言うものがとても合致しているからになる。ナマエは浮気さえしていなければ恋人思いでとても気の良い男になるし、パウリーもナマエが浮気さえしていなければ純情硬派で四六時中恋人にトキメキを覚えているような男だ。今時こんなに珍しい恋人同士もいないだろう。彼ら二人の場合、同性であることは問題ではなく、それ以外のもっと重要な部分で分かち合えているようだった。
半年に数回あるかないかの一日中フリーの日がお互いに重なると言う小さな奇跡を満喫すべく、二人はウォーターセブンの街に出かけていた。もう何十年と慣れ親しんでいる街だが、それでも過ごしていて退屈することはない。二年前に襲った巨大アクア・ラグナからの復興も順調に済んだ今となっては、充分過ぎる程にだ。
「パッフィング・トム二号も無事に運行を始めたことを祝して、一度ガレーラ全員で祝会を開くべきだと思うんだよなぁ」
「ナマエはそれで酒が飲みたいだけだろ」
「分っかんねぇかなーパウリー。他人の金で飲む酒程美味いモンてないだろ?」
歩く二人の後ろには、二人に目を奪われる女性たちや人々の姿がある。
それはパウリーに見惚れる女性であったり、ナマエに視線を送る女性であったり、ナマエの元浮気相手であったり、傍にナマエがいることでパウリーに向かっていけない借金取りの姿であったりと様々だ。
だが他愛のない話で盛り上がっている二人の姿は仲睦まじい様子そのもので、誰もその空間を邪魔してやろうとする輩はいなかった。曲がりなりにもガレーラの腕利きの職人が二人。一般の人間では太刀打ち出来ないことも周囲は悟っていた
そんな事には気がついていないナマエとパウリーの二人は、明確な目的地を持たないままブラブラとデートに勤しんでいた
「…しっかしパウリーよ、今更過ぎることなんだけどお前ってお前んとこの親父さんに俺のこと何て言ってるわけ?」
「? 何って、何が?」
「昨日の夜に親父さんから電話掛かって来たんだけどさ、その内容が"どうだいナマエ君。うちのパウリーは元気に花嫁修行やってるかな!?"だったんだぜ。反応に困ったんだけど、俺」
「ンな…!!は、はははは花嫁!?」
「親父さん酔っ払ってんのかなって思ったけど、ありゃどうだったんだろうなー…よくわかんねえ事散々言われて電話切られてさ。何だったんだ?あれ」
「お、おれに聞くな!知るわけ、ねぇだろ!」
「いやだからよ、パウリーがあの親父さんに自分の事を"俺はナマエの嫁"とかって紹介してたんならああ言って来たのもあり得るかと思って、」
「そっ!!ん、な事、言うか!!」
景気の良い音がした。
ナマエの左頬にはクッキリとした拳骨の痕が出来る。「相変わらずツッコミが暴力的だな…」とナマエは頬を涙ながらに摩った。
「ったく親父の奴…!いい加減耄碌してん、」
「あそうだパウリー、俺たちそろそろ一緒に住み始めないか?」
「だか、……ハァ!!?」
ナマエに言われた言葉を理解したパウリーが赤かった顔を更に真っ赤にさせて歩みを止めた。ワナワナと震え言葉に出来ないまま口をパクパクとさせている。突然も突然、何故ナマエが今このタイミングでそんな話を持ちかけて来たのかが甚だ不明
「いやー、そろそろ頃合いなんじゃないかと思ってさー。ずっとお互いの家を行き来してたけどもういい加減一緒に住んでも良くね?みたいな?」
軽過ぎるナマエの言葉に先ほどのようなツッコミは入れられないでいる。
だってそれってつまり、ど、どうせ、同棲ってやつじゃ、
「破廉恥だろうが!破廉恥罪だろうが!!」
「破廉恥罪!?パウリーの中じゃ同棲って罪になんのか!?」
「ちょっと言いすぎた悪かった!」
「許しちゃうけどよ!」
そう言う何年経っても初心なところがパウリーの魅力だしな!
ナマエのその言葉にはさすがのパウリーさんも限界だったらしい、とは近くを歩いていた街の屋台の店主の言葉だ
パウリーの繰り出した縄によって鮮やかに足元を掬われたナマエの体が宙を舞い、賑やかな音を立てて軒先に突っ込んで行った。
ハッと我に返ったパウリーが「ナマエー!!!」慌てて駆け寄ってさっきのように謝罪を繰り返す。
結構な痛みを受けた筈のナマエも、そんなパウリーの顔が照れた表情をしていることによって、此方も幸せそうに笑っていた。