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かなしきかな






「……ナマエはどこにいやがる」とオヤジは大地を揺るがすような声で呻った。「も、もうすぐマルコ達が見つけて連れてくるって!」「そうだ!」とサッチやジョズがどうどう、と諌めるが効果は芳しくない。届いた書文は皺くちゃだ。そこにはこんな文字が躍っている。

『お手柄、ナマエ 山へ逃げる盗人を追跡』

文だけで見るなら大した印象も受けないナマエの所業
それは当人が帰って来て明らかとなるだろう






「オヤジ!ナマエ見つけて来たよい!」
「だっはっは!オヤジー!ただいまー!」


「ボロボロじゃねぇかナマエー!!」
「お、おおおいナマエ!?頭のソレ大丈夫か!?」
「ん?頭? あ、血ぃ出てんじゃねぇか!」



マルコに担がれ屋敷の天窓から入って来たナマエは案の定の有様だ

顔と体のあちこちに枝で引っ掛けたきり傷が沢山
獣道を逃げる盗人を追いかけ足場の悪い地面を全力疾走したせいで草履はぼろぼろ
飛びついて捕まえた際に藪にぶつかったのか頭には幾つかの穴が開いていてそこから流血している
装束も破れ解れていて、
一目見て"また無茶をした"のが分かった



「すぐに手当てしろ手当て!」
「医者ァー!」



部屋を飛び出して行ったサッチ、傍らで待機していたイゾウやラクヨウ達に湯と布を持ってこいと命じ、未だ尚呑気に笑っているナマエはマルコの腕の中でだっはっは!と笑っている


「いや血が出ていたとはな!道理で頭がぼんやり霞むわけだ!だっはっは」
「笑い事じゃねぇよいナマエ!ただでさえそんな状態のくせに、どうして暴れるんだ!」
「掴みかかられれば誰だって暴れるだろう!」
「相手はおれなんだから、ちったぁ我慢しやがれい!」



ナマエには生まれつき『痛覚』がない

痛みも感じず傷が出来たことにも気付かない妙な体質のせいで苦労したことは数知れず

本人ですら気付かないままに生死の境を彷徨い、路傍に倒れていたところを白ひげ組に拾われたのが彼の不幸だらけの人生で唯一の幸福だろうか



「無茶すんなってことをいつになったら理解するんだアホンダラアぁ!」
「でもオヤジ、ちゃんと盗人は捕まえたぜ!これで街の奴らも安心できるな!」



なまじ正義感が強い奴だけに此方も苦労する

本心からの笑顔に白ひげは頭を痛めた。隣で同じようにマルコも頭を押さえる
サッチが呼んで来た医者もナマエのあまりの重傷っぷりに目をひん剥いた。
「どうしてこんなになるまで放っておいたのですか!?」の言葉に、
全員返す言葉もない。

どうにか出来るなら、ナマエ自身をどうにか治してくれよ医者サマ

我が子のように思うナマエの痛覚がどうすれば治るのか
ああ、今日も頭が痛い




「…ナマエ、それ痛くねぇんだよな…」
「ん?おお全然何とも思わないなあ!」


頭を麻酔なしで縫われている最中だと言うのにその笑顔
理解できねぇ、とジョズは肩を抱き、サッチとイゾウは見たくねぇとソッポを向いた






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