遅いアルコールが回る
「男の人でも楽しいと思いますよ!」
そんな陳腐な言葉にじゃあ…とノコノコついて来たつもりではないが、
お得意先のご令嬢の機嫌を取って来いなんて、あのお気楽な社長がこんな無愛想な自分に命令するのがいけなかったんだ。
有給だサボりだ何だと色々ワガママを言わせてもらっていたツケが今、一挙に押し寄せている感じだ。
男がホストクラブに訪れるなど…
同年輩の友人たちが、こんなおれの姿を見れば何と言うだろうか。
お気楽社長…シャンクスやヤソップ辺りなら、指を指して大笑いすることは請負である
現に社長は大爆笑していた。
「あ!いらっしゃいませ!お久しぶりですね」
「こんばんは、ナマエ君」
「今日はとても素敵な方を連れてるんですね。 はじめまして!」
「ああ…はじめまし、て?」
華美な装飾をした入り口を抜ければ、すぐに男が走り寄ってきた。
ナマエと呼ばれた男に、人懐っこい笑顔で出迎えられてしまう
その笑顔は、強張っていた心を少し瓦解してくれたような気がする
「…おれはまあ見ての通り男なんだが…来店拒否なんてのはされねぇのか?」
「ははっ 珍しいですけど、拒否なんてしませんよ!今夜は楽しんでってくださいね!」
そう言うと、ナマエはご令嬢の手を取って席へと案内する。ご令嬢の方も慣れているような仕草で、おれは苦笑いだ
このような店に通わないといけないような見た目でもない筈なのに。
もしかすれば、存外男遊びをするタイプの女なんだろうか?やれやれ…
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「へぇー!ベックマンさんて、貿易会社に勤めてるんですか!かっこいー!」
「そう言って貰えると気分は悪くないな」
「すげー…出来る男って感じですね!憧れる!」
「はは」
なかなか話していて楽しい男だ。
聞き上手なのは何にも勝る得だと思う。おれには出来ない芸当だ
後から何人か男が増えて来たが、全員一様に「え…男…?」と言いたげな顔をしたと言うのに、ナマエだけは変わらず笑顔で接してくれるから、この場違いな場で孤立せずに済む
「ベックマンさん、お酒は強いですか?」
「それなりに、な」
「うわ、めっちゃ強そう!」
「…お前は弱いのか?」
「二杯目くらいからすぐ酔っちゃうんですよね…だからもっぱらジュースかカルピスばっか飲んでますよ!」
誇って言うことじゃないんですけど!
そう言ってドリンクで出されたジュースを一気飲みしおどけて見せたナマエに笑みを返す
隣の席でご令嬢は男たちに囲まれて楽しそうにしている。
それは別にいいんだが、この会がいつお開きになるのかを聞いていない。一体いつまで付き合えばいいんだか
そして終わるまで、ナマエが自分に付き合っていてくれると有り難いんだが、ヘルプで呼ばれると行ってしまったりするのか?そうなれば孤立するだけだが…
「あ、大丈夫ですよ!」
「?何がだ」
「今日は俺、ずっとベックマンさんの傍についてるよう言われてるんで!」
「な、」
「ベックマンさんを1人にしてどっか行ったりとかないんで、安心してください」
とぼけた奴かと思いきや、なかなか人の心の起伏を読むのが上手いようだ
「…そいつは有り難い」と言えば「い、いえいえどういたしまして!…うわぁ、そんな風にお礼言われたことないんで、何か照れますね!」と照れた仕草を見せる
……なるほど
「…可愛いな、ナマエは」
「 ええっ!?そ、そうっすか!?」
「ははは!」
確かにこれは、女人が夢中になってしまう仕組みが理解出来なくもない