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そのフラグ、へし折らせてください




「実は、ず、ずっと前からあたし、ナマエ君のこと…」
「…………」
「きゃー、言えなーい、はずかしー、いやーん」
「………」



「…………何のつもりっすか、サンジ先生」
「ん? からかってるつもり」
「人が告白受けてる現場ジャマしといて反省の色はどうしたー!」
「テメッ、それが教師に対してする言葉遣いかクソナマエ!」
「そっちこそ!」



2人の声は廊下中に響き渡っていた。昼休みだけあって生徒で溢れ返るこの場所で、生徒と教師が喧嘩をしていれば好奇の目で見られるのは間違いない。各々は足を止め、遠巻きに「何…あれ?」「喧嘩?」と相談し合っている。


お互いの胸倉を掴みあって、至近距離で睨み怒鳴りあっている、生徒のナマエの方を引き取って行ったのはエースだった。「おいやめろってナマエ!落ち着け!」後頭部を一発殴り「サンジ先生、すんませんでした!言い聞かせときますんで!」と言ってスゴスゴと三年の教室に戻って行った。「放せエース!」「うっせぇバカ!」また殴られている音がした


「あ、オイナマエ、」と追おうとしたサンジの襟首を掴んで止めたのは教頭だった。
げ、とあからさまに顔を顰めたサンジに風紀に厳しい教頭は「…サンジ先生?ちょっと」だけ言ってサンジを手招きする。間違いなく説教コースだ。はぁ、と溜息を吐けば「何ですかその態度は!」と声が飛んだ








「先生ともあろう者が生徒と廊下で口論とは何事ですか!」
「あー……」
「生徒の往来の激しい廊下で等と…嘆かわしい」
「はあ…」
「喧嘩の理由と原因はなんだ!」
「……不愉快なことなんで言いたくありませーん」
「サンジ先生!」

胸ポケから煙草を取り出そうとした手を叩かれて止められる

「相手は三年のナマエ君、でしたね。彼ももう少しで卒業だと言うのに、教師がそれを妨げるような事をしてはいけません!」
「………」

卒業

「……チッ」
「!?私に舌打ちとはどう言うつもりですか!」









教室に帰ると直ぐに「どうした、何があった」と訊いて来たエースに全てを話した


「事情は分かった。確かにナマエが怒るのも仕方ねェ」
「だろ!? 可哀想に…女の子も泣いてたんだぜ…」



学年でそこそこ人気のあった女の子。
もうすぐ卒業で、離れるのが寂しいから。と告げられた告白は素直に嬉しかった。
なのに、



「"なーにやってるんだ?お二人さん"とか言って乱入してくんなよサンジの野郎!」
「…どう言うつもりだったんだろうな?」
「邪魔したかっただけだろ!?」
「いやだからよ、何で邪魔したかったのかだろ?サンジ先生は男だけど礼儀とか空気とか読める人なのに、どうしてんな事したんだ?」
「………そう言やそうだな……」
「んー…」


エースと顔付き合わせて考えてみるが、そう言われると確かに何故サンジ先生はわざわざ首を突っ込んできたのか


「……ハッ!」
「何か思いついたかエース!」
「もしかしてよ、サンジ先生はその女の子の事が好きだったんじゃねぇか!?」
「……なるほど…!」
「教師と生徒だけど、今のご時世ありえねぇ事じゃねえもんな」
「そうか…だからオレが気に食わなかったってか…」


しかし、その仮定なら1つ腑に落ちないことがある
突然の教師乱入により恥ずかしくなった女の子がバタバタと逃げ出した時、その女の子の背中を まるで憎々しげに睨み付けていたのは何故だったんだ?
仮にも好きな女子に向ける視線とは思えない。憎まれるとすれば、それはナマエの方なのが定石じゃないのか?



「……結局、告白もうやむやになったし…さらばオレの高校最後の青春…」
「どんまい!ナマエにはおれがいっだろ!」
「エースが女だったらソッコーで付き合ってるぐらい好きだ」
「お、おうよ…!」
「女だったらだからな。誤解すんなよ」
「し、してねーし!」









「…ナマエ」
「……………何すかサンジ先生。まだ何か」



ご苦労なことに、毎日何らかのバイトに行くエースはいつも先に学校を出てしまうから、帰りはいつもオレ1人だ。

部活も引退したから放課後は暇で、その暇な放課後に昼にも見たお顔が


「いや?教頭が謝罪して来いってうるせーから来た」
「…へー。 あ、そーだ先生」
「ん?なんだ、そっちが謝ってくれんのかよ」
「……誰が。 先生って、あの女の子のこと好きなんすか?」
「………どうしてそうなる?」
「オレとエースの出した結論だったんですけど」
「へぇ…ポートガスとねぇ。仲良きは美しきかな、ってか」


教室の中にも関わらず煙草を吹かしているサンジは本当にどうやって教師業続けていられてるのか、と疑問に思う。
そんなサンジがさっきから言う言葉の端々には、なにやら棘があるように感じる


「だからってオレを憎まないでくださいよ?
昼は、ちょっと勢いとかもあって怒鳴りましたけど、別にオレ、誰かと付き合う気とか全くないんで」
「え、あんなに可愛い女の子なのにか?」
「あの子とは行く大学も違いますし、遠距離とか無理な自信あるし。卒業するから、って理由で告白されても…ピンと来ない」


ナマエのその言葉にサンジの、前髪で隠れていない方の目があからさまにしょぼくれる。

女の子の話から遠回しに、自分も否定されてしまったような気がした



「……サンジ先生?」
「…え?」
「何でそんな意気消沈してんすか?」
「……ナマエ、おれは」
「ん?」



「……何でもねー」
「え!?何だよそれ気になるだろ!」
「おれの気が落ち着いたら言うかもしんねぇ」
「先生の気?いま高ぶってんすか?」
「………ウルセェ」
「…何でオレが怒らないといけな…ああ、もう分かりました。オレ帰るんで!」
「おーそうか、気をつけて帰れよ」


あれ?オレ結局、先生から謝られてなくね?
そう思ったが面倒なことになりそうだったので口には出さなかった。
鞄を担いで教室の扉を開ける



「じゃ、さいなら先生」
「あー」
「あ、明日って先生の授業ありましたっけ」
「三時間目にな。寝んなよ?」
「寝ませんって。 もうちょっとで卒業だから、しっかりサンジ先生の姿を目に焼きつけとくつもりなんで!」
「…!」



バタバタと廊下を走って行ったナマエの背中をサンジは見送る


焼き付けておくつもりなんだと、あの野郎
もうすぐ卒業だから、一年の頃からいっつも居眠りしていたアイツが起きて、姿を焼き付けとくんだってよ



「……明日からスーツ変えようかな…」

いつもより早く起きて、髪型も整えて、服を整えて、

ナマエの目に、自分がいつまでも映っているように





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