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「#幼馴染」のBL小説を読む
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放課後drab




「つまんねぇ」
経済学の本はおれよりも夢中になるものなのかよ、とキッドは椅子の背凭れに顎を乗せながら不満気にそう言った。言われた方のナマエは一言「面白いよ」とだけ言って視線はキッドには向けない。それがまたキッドの不満を煽らせた。かれこれ一時間もこうしている。クラスの他の奴らはもうとっくに下校していて、夕暮れ差し掛かる教室に残っているのはキッドとナマエだけだ。青春の一ページ?とんでもない。ただやり過ごしているだけだ



「っだからおれが行ってブチ殺してくるってんのによ」
「…喧嘩は駄目だよ。先生に見つかったら、停学にされる」



ナマエは大人しくて、地味で、根暗で、特徴もそんなに無ければ愛想も無い。趣味は読書で好きなものは静寂、嫌いなものは騒音とDQN人間な人畜無害のナマエだが、無駄に学校の不良共から「生意気だ!」と言うレッテルは貼られる奴だ。見た目のひょろ長さからも想像がつくように、肉弾戦は得意ではない。だから放課後、校門や昇降口で不良に待ち伏せされていると言う事を事前の空気で察知しているナマエは、向こうが諦めるまで校舎の何処かに待機して時間が過ぎるのを待っているのだ。今はキッドが居るからこうして教室で読書なんて呑気な過ごし方をしているが、何時もなら人で溢れ返っている食堂や購買で時間を潰している。
しかしキッドの方が今にも飛び出さんばかりの勢いだ。軟弱に逃げているだけのナマエにもムカッ腹は立つが、それ以上に腹を立たせる原因はやはり件の不良共だろう。



「んな甘っちょろい事ばっか抜かしてたらテメェ、卒業までずっとこのまんまでいるつもりかよ!」
「…イジメの対象ってさ、早い段階で移ってくよね?それを待ってるだけだから」
「…ダァー!腹立つ!本ばっか読んでんなよ!」
「…キッド君、本返して」
「うるせェ!」



これでは誰が苛めているのやら。手から奪われてしまった経済学の本はキッドの手によってナマエの手が届かない前の机の方へと追いやられてしまった。大体にして、キッドのことをナマエは理解出来ずにいる。見た目のイカつさから言えばキッドもナマエを毛嫌いする不良たちとどっこいどっこいの勝負だ。いや、恐ろしさで言うなら間違いなくコッチの方が上だと思う。軟弱だとキッドも言う通り、ナマエは自分が好かれるタイプだとは考えられない。なのにキッドは、今も昔もこうやって、いつの間にかナマエのすぐ近くにいるようになっている



「んっとにお前って小学校からちっとも変わってねぇんだな。中学はどうしてたんだよ」
「…三年間図書委員で図書部員やってつつがなく過ごしたよ」
「本の虫か!!」



小学三年の終わりにナマエが転校して来てからの三年間、別々の中学に行ってから三年間、高校で再会してから一年間、こんだけ時間が経っても全く変わっていないナマエをキッドは直ぐに分かった


ソリが合わないこともウマが合わない正反対な性格なのは分かっている。だがどうにも見捨てられないのは、誰かに目を付けられようが何と思われようが、自分を全く変えないナマエの姿がキッドの目には他よりも特別に映ってしまうから仕方が無い



「あああもう、そろそろ帰んぞ!」
「…だってまだいるかも、」
「会ったらおれがメンチ切ってやっから!暇すぎておれが暴れっぞ!」
「……」


分かった、じゃあ帰るよ。と言うナマエは、決して「ならボクのことは放っておいてよ」とは言わない。頼んでもいないのに厚かましく、余計なお世話を掛けたがるキッドのこう言うところは、別に嫌いではなかった



「…キッド君、帰りに本屋寄ってもいいかな」
「あ!?…しょ、うがねぇな…」
「…?何故ドモったの?」
「な、なんでもねぇよ!」
「…そう」



放課後デートか!!と内心ジタバタしているキッドのことなど露知らぬナマエが靴を履き替えようと下駄箱に手を伸ばした時、
前から声を掛けて来たのはやはり待ち伏せていた不良たちだった



「オイオイ、どこにいたんだよナマエ」
「俺らずっと探してたのによ」
「なぁ、今からちょっと付き合っ、」



全てを彼が言い終わる前に、隣に立ったキッドから地を這うような声が出される



「…ア?」

「ユ、ユースタス・キッド!?」
「な、何でお前がナマエなんかと一緒に、」







その後、目力だけで厄介者どもを退散させたキッドをナマエは手放しに褒めた。喧嘩は駄目だと伝えた甲斐があるものだ



「それにしてもキッド君の目力は凄いな」
「…そうか?さっきの奴らがダセェだけだろ」
「山賊の親玉みたいだった」
「…嬉しくねぇ」


あれで懲りてくれたらいいのだが。
コッチにはユースタス・キッドがついてるんだぞ、と言う事がもう少し学校に浸透すれば標的からは外れられるかもしれない。ナマエは明日からの振る舞いを改めてみようと考えた



「…キッド君は読書に興味ない?」
「ねェよ、むずかしー事ばっか書いててめんどくせぇ」
「ボクがキッド君でも読みやすそうな本、選ぼうか?」
「……なら、読むかもな」





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