Daddy! Cherish!
クロコダイルの父親は、我が子を天使だと思っている
「クー君、朝ですよ起きてくださいね〜!」
「…」
「早く起きないとキスするよ?するからね?やっちゃうぞ!?いち、にの、」
「…おきたからやめろ」
保育所の頃、『せんせー、くろこだいる君がにらんでくるよぉ』と園児に無実の罪で泣かれたことがある釣り上がり気味の目も、父親から見れば「何て可愛らしいお目めなんだろお」となるらしい
「前髪が顔にかかってたらクー君の可愛いお顔が隠れちゃう!!」と言った父親が幼いクロコダイルにオールバックと言う髪型を定着させたのもそんな理由で、
よく"目に入れても痛くない"と言うが、この父親の場合は我が子に心臓を抉られたとしても可愛いと笑っていそうな程だ
母親の愛情の分も父親が肩代わりしてくれている。だからクロコダイルは生まれてこの方、"愛情"に欠乏したことはなかった
それが幸せであることは、小学二年生のクロコダイルにも知れたこと
多少の鬱陶しさぐらいなら慣れたものだ
「クー君今日は早起きさんだねぇ、偉いねぇ」
「…父さんが起こしたんだろ…」
「やだ!父さんじゃなくてパパって呼んでくれていいんだよクー君!ほら!!レッツセイ!パパ!!」
「ぱぱそこのまよねーずとって」
「よし来たぁああ!はい、どうぞ!」
何とも御しやすい父親だ。
今日も豪華に、外国ドラマに出て来そうな洋食ブレックファーストの食卓
焼きたてのバターロールに黄身が二つの目玉焼き、こんがりソーセージに色鮮やかなシーザーサラダとイチゴのジャムが乗ったヨーグルトとフルーツグラノーラ
子どもの健康を第一に考えた食事メニューを抑えるのは、父親にとって当然とも言えることだった。これを毎朝作り続けている父親は尊敬に値する。
ただ少しぐらい、休日の今日とかぐらいは休めれば良いのになんて思いながら
「…あ、」
「ん?なになにクー君!パンのお代わり!?」
「きょう、家庭訪問の先生がくる日」
「えー!?聞いてなかったよクー君!?」
「言うのわすれてた、ごめんなさい」
「素直に謝罪できるクー君なんて素晴らしい子なんだろ…!いいよイイよ許しちゃうよパパ!」
まだパパを引きずっているようだ
「何時にいらっしゃるのかなぁ、先生?」
「9時半」
「もう来るねぇ!よかった、気構えが出来る時間があって!!」
椅子から立ち上がり、洗面台に駆け寄って髪の毛を整えている父親の今の格好はスウェットにジャージ姿だったが、それ程気を使わなくとも顔さえ洗っていれば安心感を与える顔立ちをしているのだから問題はないだろう
クロコダイルはそこを少し残念がった。父親と全く似た部分のない自分も、父親のように優しい目をしていればあるいは、
ピンポーン
「いらっしゃったか!」
「らしい」
はーい、とドアの方へ返事をしながらダバダバとした足取りで走る父親の姿は正直ダサい。が、あの父親が凄いのは対人と接する時だ
「朝早くにすみません。私、クロコダイル君のクラスの担任をしています、……と申します」
「あぁこれはこれは、先生。いつもウチのクロコダイルがお世話になっています。ありがとうございます」
「あ…いえいえそんな!クロコダイル君は本当に良い子で、勉強もトップですし…」
「本当ですか!やぁ、それは嬉しいな。きっと先生の教えが上手なのも理由してると思いますよ」
「そんな…ありがとうございます…!」
さっきまでのウザいナリはいつも何処の次元へ追いやってしまうんだろう。クロコダイルはバターロールに噛り付きながら、玄関で繰り広げられている会話に耳をそば立てた
父親は、普通にしていれば普通にカッコ良い男だ。今だってスマイルを貼り付けて、女の教師が安心出来る応対を心掛けている。
見ろ、担任の顔がどんどん赤くなって行ってるぞ。また女を誑かして、仕様のない父親だ
「では此方が次の参観日の日程を書いたプリントになりますので」
「ありがとうございます。是非行かせてもらいますね」
「は、はい、お待ちしております!では!」
「ご苦労様です。お気をつけて」
ニコニコと担任の姿が見えなくなるまで手を振って、プリントを手に持ち足取り軽くリビングへ帰ってきた父親はまたさっきまでの父親に様変わり
「クー君〜!参観日だってー!」
「あぁ」
「クー君の学校生活を堂々と見守る事ができる神聖なイベントだもんね…!うおぉ燃えてきたああああ」
「…なんで燃えるんだよ」
「バッチリ!キメて行くからねクー君!!」
「…別にいいって、んなキメなくたって」
「そうは行かない!!"クロコダイル君のお父さんってかっこいいね〜!"、"だろ、自慢のパパなんだ!"って言われるイベントを発生させるのだから!!」
「…パパなんて言わねーし、そもそもソレ本人を目の前にしていうことじゃないし」
それに父親自慢なら普段からしてるから意味ないし