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坊主頭と不機嫌な恋人







昨日は、発売したばかりのゲームに熱中し過ぎてしまった。お陰で寝たのは深夜2時。寝坊して朝練に遅れてしまうんじゃと恐れたオレは、いつもより早い時間帯の電車に飛び乗った。今思うと何故あんな早くに起きてしまったのかと思うんだけど、寝惚けて焦っていたんだから仕方が無い。鍵当番の奴よりも早くに部室に着いてしまって、ボーっと突っ立ってた時間にようやく何かを忘れていたことに気がついた。



「…………ロー」



そうだ。ローに連絡を入れてない。
いや別に今まで連絡なんて入れたことなくて、お互い当たり前のように毎日同じ時間に駅のホームで待ち合わせてたけど、もしかすれば今日だって多分、いや絶対にローは同じ時間にホームで待ってくれてる筈だ。
どうしよう連絡しないと、と肩に掛けてた部活カバンを下ろして携帯を探そうとするが、タイミング悪く監督と鍵番の奴がやって来た。「おーナマエ、今日は早いじゃないか」「何でこんな早くにきてんだ?お前」「…あー、いや…」しまった。監督が来れば、それ即ち部活の始まり。部活中に携帯なんか取り出そうものなら監督の激が飛ぶだろう。手に持った携帯をそっと戻した。ごめん、ロー。今日のオレは待たなくていいから。このテレパシーが届く筈ないのだけど










朝練が終わって、急いで着替えて、HR始まる前に教室に着いてローの姿を探したんだけど、
ああ、分かりやすく不機嫌だ


「ロー」
「……、」


目も合わせてもらえなかった。構うもんかい。「ごめんな、ちゃんと連絡入れれば良かったんだけど」と謝る為に「ご」と口を開いた時に担任がクラスに入ってきて着席を余儀なくされてしまった。あぁ…、後ろ髪引かれる気持ちでローに背を向けて自分の席に戻る。
まあいい、次の休み時間にまた言いに行こう。



と、軽く考えていたのに。休み時間になる度に、ローを捕まえられなかった。
休み時間になった途端に席を立ってさっさと何処かへ行ってしまうし、
3時間目の移動教室の時もシャチやペンギン達を連れて行って声をかける暇もない
かんっぜんにオカンムリだ……。もうボーゼンと突っ立ってるしかないぜオレ



「なぁにやってんだナマエ 授業始まんぞー」
「……サンジ助けてくれぇ」
「は?ヤダね。ヤローは失せな」
「優しいのか厳しいのかどっちかにしろよ〜」



えらくトラファルガーに釣れない態度取られてたけど、喧嘩でもしたのか? 察しのいいサンジは気付いたらしい。そうなんだ、と涙ながらに頷けば、「あ、そう言や」と首を傾げる。なに?



「おれ、今日朝一で教師に提出しなきゃなんねぇ書類があったから早くに教室着いたんだけどよ」
「うん」
「トラファルガーの奴、もう来てたぜ。アイツっていっつもあんな早くから学校に来てんのか?意外すぎる」
「…それさ、窓際の席に座ってなかった?」
「何だよ知ってたのか? おれのおはように気付かねぇぐらい熱心にグラウンド見てたぜ」
「…………」



どう言う感情を含んで見られてたんだろう。『アイツ 絶対 許さねぇ』な憎悪的なアレだったら嫌なんだけど………











昼休みこそは逃がさん。
やはり早々に席を立とうとしたローに素早く近付き、「ちょっとオレに付き合って」腕を掴めばローも易々と逃げられないだろう。野球部部員の握力を舐めるなよ。

「………」「…?」ちょっとは抵抗されるかな、とドキドキしてたけどそんな事はなかった。付き合え、と言う言葉にコクンと頷いただけで、ちょっと拍子抜けする。

とりあえず教室から出て非常階段の陰に連れて行けば、そこで漸く手を振り払われ「……何だよ」と睨まれた。



「今朝の件だ」
「ああ…弁解があるのか?手短になら聞いてやってもいいぜ」
「寝坊して朝練に間に合わねぇかと思って二本早いのに乗ったんだ」
「………」
「で、ローに連絡しようとしたら監督が来て携帯つつけなくて、連絡入れらんなかった。ホントごめん!」
「………えらく素直に謝ってくれたもんだな」



そんなキッパリと謝られたらいつまでもブスくれてんのが恥ずかしくなる。そう言ってローは帽子を取ってパタパタと仰いだ。多分意味のない行動なんだろう。
とりあえず、オレの言いたかったことは全部言えた。そこに満足だ



「……別に、恩着せがましく言うつもりはねぇが」
「何でも言ってくれ」
「いつもの便の時間が来てもお前が来ないから、心配、した」
「うわ…それはゴメン」
「携帯に電話しても出ねぇし」
「何回も履歴残してくれてありがとな」
「それで…いつものより遅いのに乗ったら、中が満員で狭苦しいし」
「…おう」
「教室行ってグラウンド見たらボール追っかけてるし」
「…おう」



「バーカ」
「うん、ほんとゴメン」



今日の昼飯をオレが全部奢ればチャラにしてくれるようだ。安いもんだ、とタカを括って財布を覗けば悲惨な様相だった。そうだ、ゲーム買ったんだった









放課後のメニューはチーム分けしての対抗戦だった。
夕陽は沈みかかっていて、グラウンドには夜間照明が点灯される。

試合前のアップ運動で、今朝の鍵番だった奴に背中を押してもらっていると、「そう言えばよ」と声を掛けられた。



「なんだー?」
「お前、何であんな早くに部室来てたわけ?いつもはもうちょい後に来んじゃん」
「あー……その話はもうやめてくれー」
「何で?」
「ちょっと喧嘩した後だから」
「喧嘩した?恋人とかー?」
「………」



アップの腕を止めて、グラウンド入り口の階段スペースに腰掛けている人を見る。

向こうもオレが見ているのに気が付いたようで、少し腕を上げて小さく手を振ってきた。



何ともむず痒い気分だ




「…おーよ」
「お?」


「コイビトとだよ羨ましいかー」
「はー!?おま、マジで彼女いんのか!!」
「はっはっは」
「坊主頭のくせに……死ねー!」
「おまえもだろー」




但し彼女ではない




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