ティッシュの正常な使用方法
人は天命を全うせざるを得ない生き物だと彼の人は言った。まったくその通りだと思った。
そしてとても生き難い世の中なもんだ。キッドにしてみれば今のこの人生は生温く、腑抜けているとさえ感じる。そしてこの世界の空気に当てられた幼馴染は、一段と間抜け面になったような気がする。昔はもう少し、シュっとした顔つきをしてたはずだ
「何でんな不細工になっちまった」
「人の顔ガン見した後にその台詞なんて、イイ度胸だねキッド」
「目がやっべぇことになってんぜウサちゃん?」
「掻き毟ったからだよ分かってんだろ」
――花粉アレルギーとは
えらく可愛いモンに変わっちまったもんだなぁナマエ?
ニヤニヤ茶化せば、「キッドの頭を見てる方がよっぽど痒くなる」とナマエは反撃した。目に悪いし、今のナマエの目よりも真っ赤っかな頭をした奴にウサちゃんなんて言われたくないんだよウサギさん? キッドはおもむろに拳を振り上げた
「いってぇー! 加減しろよ筋肉バカ!」
「うっせー!こんくらいで痛がんなヒョロ男!」
「なにくそー!?」
吠え立てようとしたナマエの行動が固まった。むずむずと顔と鼻を歪め、ぶええっくしょーん!と大きな声でくしゃんだ。ティッシュ箱のティッシュが底を尽きたらしいので、新しいのを代わりに渡してやる。もう今月に入って何箱目だ
「だー…マジこの季節はイカン……逃げ出したい…」
「何処にだよ」
「どっか遠くだよ…花粉の届かなそうな、海とか……」
海に出たって花粉は風に乗って流れお前を追うだろ。
ナマエはそれもそうだ…と項垂れた。一生逃げられないことを悟ったらしい。鼻水だけじゃなく、目から出た涙も拭い始める。目も鼻も真っ赤っか。…ああ、真っ赤だなあ?
「…駄目だな、こりゃ。春先のナマエ程一緒にいてツマんねぇ奴はねぇわ」
「なんだと…大体キッドがウチに来た時に玄関に置いてる花粉ストップで身を清めてから入って来ないのが悪いんだしょーが!だっくしょん!」
「あ? じゃあもうお前ンとこなんざ一生来ねーよ!」
「そこは来て!友達だろ!」
「……うっせー鼻水!」
「人の生理現象を悪口みたく使うな!」
箱からティッシュを一気に十枚ほどもぎ取り、いまだにズビズビ弱っているナマエの鼻周り目掛けて押し付けた。「ふげらっ」と声を出してジタバタ暴れるナマエにざまぁみろと笑う。呼吸が出来なくて苦しいか。そうか、そうか
「…お前の泣きっ面見てると、昔思い出してヤんなっから見たくねェ」
「んな、の……キッドがただ…、寂しくなるだ…けだ、…ろぶふっ」
「だァまれ!」