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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ようやく貴方といれる世界




「……キャプテン、何すかこの紙束は…」
「テメェに会ったら言ってやろうと思ってたことが沢山ありすぎて、文書に書きとめておいたものだ」



今のご時世にワープロでなく手書きなところがキャプテンらしい。達筆な文字で表紙トップには『ナマエへの恨み辛み Vol.1』と書かれている。これをキャプテンが1人で書いたのかと思うと少し笑える。じゃあ読ませてもらいますか…と表紙を捲ろうとすれば、「やっぱり返せ」と前から奪われてしまった。


「…返してくださいよ」
「内容思い出したら恥ずかしくなった。読むな」
「あー!」



紙の束を一遍に破り裂いたキャプテンの握力やべぇ…とか思ってる場合じゃあない。読みたかったのに!ハラハラ落ちて行く破片から読み取ろうとしたが、更にその紙切れの上にキャプテンの足が伸し掛かる。踏みつけられた紙はグシャグシャになった。



「キャプテン、結局なにがしたいんです?」
「………」
「そんな怒った顔しないで」
「じゃあその"キャプテン"ってのやめろ。もう、そんなんじゃない」
「えー…じゃあ、ロー、さん?」




――うは、懐かしいです何か


ナマエはわらった。懐かしいか、そりゃそうだ。
ナマエが死んで、こうして"あの頃"の記憶を所持したままのお前に出会えるまで何百年も待った




最初は 60歳年が離れていた

記憶を大量に保持していた子どものおれにとっては、雑踏の中からナマエを見つけることは簡単だった でもナマエは、その時既に80歳 おれと生きていた頃なんて元より、自分の少年時代のことも忘れたんだろう 曖昧な笑顔と一緒に、おれは「はじめまして、ぼっちゃん」と呼ばれた。そして次の日ナマエは死んだ。大往生だとナマエの妻らしき老婆は笑っていた。おれは笑えなかった




二回目は 病魔に侵されていた

おれが受け持っていた病院に新しく入って来た重病患者がナマエだった 毎日38度以上の熱に魘され、思考するのを許されず、人の話を聞くことも人と喋ることさえままならない状態で ナマエの荒い息遣いだけを覚えている そしてナマエが死んでしまう丁度前日、横たわったベッドに近付いて「…愛してるんだナマエ」と言うのが精一杯だった おれに医学の腕がもっとあれば うつ伏せになって泣くこともなかった




三回目は おれが女だった

通っていた学園の同級生 こんな好条件は今までになかった おれは「覚えてる?」と訊いた しかしナマエは難色を示した 「…え?俺、君みたいな可愛い子知らないんだけど…」と変なものを見る目で見られたのを覚えている その後、尚も縋ろうとしたおれをまるで無視したナマエは 同じ学校の女子と付き合い、その後何の変哲もない恋をし、結婚した 「また駄目なのか」 女になっても、ナマエに受け入れられないのであれば意味はない




四回目は ナマエの子どもだった

"ロー"ではない違う名前を付けられそう呼ばれたおれは、あの人生においては"ロー"ではなかったのかもしれない 母親は優しい女性で、4つ下の妹も幼いながらに可愛く守ってやらなくちゃと思えた 父親のナマエはおれをとても可愛がってくれた 将来は医者になりたいと言ったおれの言葉にナマエは「応援するぞー!」と笑ってくれた しかしやはり女の子どもの方が可愛く思えるのか、妹が生まれてからは妹ばかり構うようになっていた そしてある日、車道に飛び出した妹を助けようとした父親は事故で死んだ




五回目は 覚えていなかった

おそらく、おれも記憶を少し忘れていたんだと思う
何も感じず何も思わないまま青年期を過ごした時、とある拍子に記憶がまた舞い戻ってきた

全てを思い出して慌てた時には、 隣の家に住んでいた幼馴染のナマエは 家族と共に遠い遠い土地へ引っ越していた後だった








そろそろ神様おれにもわらってくれないか、と願った六回目


ナマエはおれのことを覚えていた




「……お前のことなんか好きでも何でもなかったんだよ」
「…あ、そうなんで…」
「なのにお前はおれを庇って笑顔で死んだりするから、その後のおれの人生ずっとお前のことを忘れられなかった」
「……よくやった、俺」
「何か言ったか?  …おかしいだろ。お前のせいなんだぞ。おれのことをこんな風にさせたくせに、お前はちっともおれの事を忘れてばかりで。不公平だ」



ローの足によってぐしゃぐしゃにされてしまった紙の切れ端から、『……いたい』と書かれているのが見える




「…ローさん」
「………なんだ」
「俺に、会いたかったですか」



ローは大きく瞠目し、ゆるゆると俯いた



「……会いたくなんか、なかった」
「本当ですか」
「……自惚れんな」
「何度も生まれ変わって、俺を探してくれたのに、ですか」
「………、………」





「…あい、たかった………」
「――ありがとうございます」






ようやくお前と 愛し合える世界




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