不変の法則
「……マルコぉ 僕さ、もうコイツ等絶対に連れてくるなって前に言っただろ?」
「んー言われた気ぃするなー」
「あっナマエ!大トロなくなったー!握ってくれー!」
「……」
「ワタアメ用の砂糖無くなりそうなんだけど追加はー?」
「……」
「何だこの味噌汁うまぁ!シェフを呼んでくれ!」
「…僕だけど」
「さすがナマエ!嫁ぎ先なかったらおれんトコに直行な!」
サッチにプロポーズされたこととかどうでもいい。
しらばっくれてサラダバーに向かって行ったマルコは後でぬっころす
「……何でお前たちはウチに来るの…」
「腹減らしてたら知り合いが働いてるバイキングに寄るのが友達だろ?」
「 なら友達のメーワク考えてもっと少人数で来いよ!」
なんだこの大所帯は!!
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――昼を少し過ぎた12時30分
ナマエが正社員として働く国道沿いのバイキング店のそこそこの店内にいる客のおよそ9割が知り合いだと言うとんでもない状況にある
来店したとき、ナマエは厨房で追加の寿司を握るのに忙しく、パートのお姉さんから「あの、いま店内にいらっしゃる方たちってナマエさんのお知り合いじゃないですか?この間も来てた…」と言われてしまい、嫌な予感を抱きながら厨房の入り口からコッソリ覗けば、案の定見知った顔ばかりいた。思わず膝から崩れ落ちたところを心配して駆け寄ってきたマルコの胸倉を掴みなおして問いただせば、あのしらばっくれ様 本当にマルコは2回ぐらいぬっころさないと気がおさまらない
一度目、初めてみんなが来店した時はオヤジも一緒だった。だからどれだけ大所帯で店に来られようとまあ仕方ないかと許せたのだ。「でも今度来る時はもう少し少ない人数で来てくれよ?他のお客さんの迷惑になるからな」とちゃんと言い聞かせておいたのに
「ちゃんと金払ってる客だからイイだろー?カテェなーナマエ」
「…エース、もう砂糖補充してやらんぞ」
「あー!ちょ、すまん!謝るから砂糖プリーズ!わたあめ!」
前回も今回も、運よく主任がいなくて良かった。パートのお姉さんは黙ってくれるみたいだし、ナマエが怒られることもない。しかしうるさい
「サラダバーにラディッシュ置いてないなんて…ナマエ、どう言うことだ」
「……そんなの知らないよ。あとビスタがラディッシュ好きだったのも初耳だ」
「ラクヨウ、君は全体的にアウトだ」
「んでだよ!?」
「ドレッドヘアーに濃ゆいヒゲ…不摂生さを思わさせる」
「おれのトレードマークにケチつけんのかテメェ」
砂糖の新しいのを補充しに来たパートのお姉さんに言い寄っている奴らの耳を引っ張ってテーブルに帰す。しらばっくれて逃げていたマルコは、そのテーブルで1人マイペースに焼肉を焼いていた。
「…あれ? ちょっとそこのコンロの火ぃ強めてくれよいナマエ」
「………」
「おおい加減しろ!消し炭になる!」
「なればいいのに」
「まあそう怒んなよい」
「…もうそんなに怒ってないよ」
「? なら良かった」
入り口に姿を現した2人の女性客に、
「申し訳御座いません。ただ今満席で…」と説明しているレジ番の子の声が聞こえる
「ナマエさん、そろそろ戻ってください!」と厨房から呼ぶ声が聞こえる。
「ほら、呼んでるよい」背中を叩かれ催促されるが、分かってる、聞こえてる
いつの間にか、自作したワタアメを両手に持ったエースも隣のテーブルに帰って来ていた。ご満悦そうな笑顔だ
「…ちゃんと2時までには出ろよ」
「分かってるよい」
「あ、そーだナマエ!」
「なに?」
「今日の8時からカラオケ行く予定なんだ!ナマエも行くだろ?」
てか行こうぜ! ナマエの頭を引っ掴みながら、強制的に決めたエースの手をタップしながら、ナマエは「…分かった、行く、から」とだけ答えられた。厨房に戻る背後では、まだ奴らの楽しそうな声が聞こえてくる
ナマエがモビー・ディックのコックをしていた時と何ら変化しない光景に苦笑する
人は生まれ変わっても変わらず成長しない、と言うのを目の当たりにしている気分だった