13万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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瞑目が似合わぬぼくら




残る人生の道楽、財産を受け継ぐ者もいない老後の一時は、自分が生まれたこの国を一通り見てみたいと思った。金と時間が許す限り引越しを繰り返す一人旅。出立を決めた時に、マルコやエースやサッチたちは泣いていた。おれも連れて行ってくれよ! 一人じゃ何があるかわかんないだろ! やだよオヤジぃい! 心配してくれた息子たちに悪いことはしたが、社会の圧迫感から解放された今の生き方をニューゲートは気に入っていた。何よりも自由であり、遠い昔に海賊として海を渡っていた頃を思い出して気分がいい。さすがに海外まで足を伸ばすのは憚られた――そんな大胆なことはニューゲートがもう少し若ければ可能だった――東北を巡り、北の大地は一頻り堪能し終えた。明日になればまた居を移す算段を立て始めるだろうと考えていた矢先、思わぬ人物と遭遇してしまったのが今日の夕方のことだ



「……、………」
「… ……」



お互い、開いた口が塞がらない間抜けた顔で指をさし合う。5分はそうしていただろうか?道行く人々が怪訝な目で早足に脇を通り過ぎて行く。今朝からチラチラと降っていた雪は着実にニューゲートと目の前の男の頭と肩に降り積もって行っている。ニューゲートと同じく年を重ねた様相の男は顔のあちこちを寒さで赤くしながら、ようようと言う風に口を開いた



「……………… ニュー、ゲート?」
口から飛び出した低くしゃがれた声

「……ナマエ、か?」
ニューゲートが驚き半分、期待半分に訊ねた言葉に、目の前の男はブンブンと首を縦に振った。



「おおお…お前……この辺に住んでいたのか!?」
「…それはこっちの台詞だァ…、ナマエ、テメェも生きてたのか」



分厚いブラウンのスタジャンに身を包んでいる目の前の男――ナマエの姿は、少し外に出る為の軽装、と言った風体だった。この近所に家を持っているのか!?と問えば、指で示されたのは、現在ニューゲートが宿にしている小さな民宿より三軒離れたこれまた小さな木造の一軒家



「オレは生まれてから今まで何十年、ずっと此処に住んでたぞ…」
「……何てこった…」
今まで顔を合わせなかったのが奇跡であるぐらいの近さではないか。



「おれは今、全国を旅していた途中だった」
「…なるほど 余生の楽しみを見つけた、ってことか?」
「ああ… まさか、偶々足を運んだ土地にナマエがいたなんてな……お前とは会えないまま今度の人生も幕を下ろすのかとてっきり」
「……それはオレも同じだ。 ニューゲート、もっと早くにオレに会いに来ねーか」
「無茶言うなァ」



頭に乗った雪を手で払い除けたナマエは笑っている。
くしゃくしゃに目を細めて、鼻を一度スンと鳴らして笑うところがちっとも変わっていないではないか。おれはお前のその癖が好きだった。それがもう一度見られるなど、夢ではないよな



「…あー、このまま立ち話もなんだ。オレの家に来て話しようじゃないか」
「そうだな。まだ色々聞きてェことがある」
「オレもだ。お前のとこの若造たちも生まれ変わってんのか?」
「ああ。1人残らずな」
「…なんてミラクルだ?羨ましい。オレのとこの奴らとは、ちっとも出会えてないのに」



それはナマエがずっと一箇所に留まっているのが悪いんじゃないか?――そう指摘すれば、それもそうだと手を打った。一先ず、ニューゲートは泊まっている民宿の女将に「知人を見つけたから其方の家へ行ってきます」と伝えに行った。外でそれを待っていたナマエは、口を半分開いた妙な笑顔のままでジッとニューゲートを見ている。何だその気持ちの悪い笑みは、とつつけば、「…笑ってたのか?オレ」なんだ、無意識の笑みだったのか



「…しかしニューゲート お前の遺伝子は色濃いな。何だその髭。一目で分かったぞ」
「そう言うナマエ、テメェこそチンクシャみたいな顔そのままじゃねェか」
「何おう 指摘していいトコと悪いとこがあるぞニューゲート」



降る雪は量を増し始めた。直に道イッパイに白雪が積もることだろう
それは此方とて同じこと。積もる話があり過ぎて困ってしまう。今夜は眠れない





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