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神を愛する犬がおりまして







チャカが言う"チャカの神様"とは其れ即ちネフェルタリ家の者達を指す。その中でもより神に近い存在だったのが、心から崇拝していたネフェルタリ・ナマエのことだ。彼の手足となり、傾倒し、心身を砕いていてもまだ足りない。もっと、もっとあのお方の意のままとなりたい。彼がチャカの"神"である内は


だからチャカは、ナマエに感謝する


此度の世 またも同一の命を授かり、生き、そしてまた貴方様に出会えた事
これが偶然ではなく運命であるならば、チャカの二度目の命をナマエに捧げる事など至極容易で当然のこと


例えチャカ自身のことをナマエが覚えていなくとも、
チャカの身がナマエへの想いのせいで焼け焦げようとも
それら全てを抱き込んで頷けるぐらいに、貴方は私の神なのだ










「チャカ チャカはいるか」
「此処に」
「 おお、そこにいたか」



ナマエの大学への送り迎えはすっかり使用人のチャカの役目だ
この世は良い。"車"と言う便利な乗り物が発明されているお陰で、能力を失くしてもこうして主の為に動き回ることが出来る

「蒸し暑い」と言って、羽織っていたジャケットを脱いで手渡してきたナマエの手からそれを受け取ったチャカの目にもう1人、ご学友の顔が見えた

「これはコーザ殿…お久しいですな」「いや、チャカさんこそ」
コーザもやはりこの世に生まれ直していた。生憎と此方も以前の記憶は失くしてしまっているらしく、友人であったナマエやビビのことも、チャカ達のことも忘れている為に
チャカも慣れない言葉遣いでコーザと接する羽目になっていた



「チャカ 今日はコーザも送っていってやってくれんか」
「?畏まりました」
「すみません…おれのバイク、今朝ぶっ壊れちまって…」
「なんと、そのような事に…」
「ブレーキが根元から折れてしまってたんだと。間抜けな」
「お前な…!あのまま気付かずに発進してたら笑い事じゃすまなかったんだぞ!」
「気付けたのだから笑い事にしても構わんだろう?」
「結果論じゃねぇか!」
「はっはっは!」



今も同じように笑い合われているナマエとコーザの姿に、チャカはニコニコと微笑んだまま見ている。己の主はとても楽しそうにしていて、自分の事のように嬉しくなってしまう。

暫く、大学本堂の前で口論し合っていた2人だったが、
背後から掛かった「よう、ネフェルタリ!」と言う呼び声に中断を余儀なくされる



「む?」



声を掛けてきた者達の顔は見たことは何度かあったが、名前をナマエの口から聞いたことがない者たちばかりだった。少し下卑た表情を浮かべている。あまり愉快な連中ではない。チャカは少しばかり警戒を表すように、一歩半ナマエより前に歩み出た



「 何だ、お前たちか。しつこいぞ」
「何でだよ別におれ達しつこくなんかしてねぇだろ?」
「"お金持ちサマ"の力で、ちょーーーっと女とか金とか分けてちょーだいよって言ってるだけじゃん!」
「いっぱい侍らせてんだろ? なんせ前世は"砂漠の国の王子様"だったらしいじゃん!」


なんと勘の良い者達だろう。今のネフェルタリ家は砂漠の国の王家ではなく、何でもない"ただの富豪"として生きているにも関わらず、それに気付いたのなら素晴らしい観察眼であると褒められる

若しく、ナマエの普段の言動からそれを察したのであれば、
やはり失われぬナマエの威厳や荘厳さにチャカは眩暈がする程に惚れ惚れとしてしまうことだ



…ああ、いけない。放心してしまうところであった




「――お前たちは不愉快だ。帰るぞチャカ コーザもついて来い」
「は…」



意に介さず立ち去ろうとしたナマエの姿がやはり気に食わなかったのだろう。
尚も男たちは食い下がろうとした


「お前、その男ってアレか?お前のお付きの者って奴か?」
「…」

アレ、と言ってチャカを指差されたことに対してナマエは明らかに顔を顰めた

「…だとすれば何だ」
「へっ、やっぱお金持ちってのは考え方が違うなぁ?男なんか引き連れて楽しいのか?どうせ犬みたいに扱ってんだろ?」
「趣味わっりー!」




言ってはならぬことをこの者達は言っている。ナマエと言う人間を侮辱し乏す言葉だ

「お前らな…!」と掴みかかろうとしたコーザの手を掴んで止め、
チャカは、一度は向けた背を返して男たちに向き直る
怒りの顔、と明白であるチャカの表情に男たちはやっかみの手と口を止めてたじろいだ



チャカが今にも叱責の言葉を浴びせようとした瞬間、
怒れる肩にナマエの節くれだった手が置かれた



「 ああ。どうやらチャカは、オレの犬になりたいそうだからな。その変わり者の意思を尊重してやるのも、飼い主の務めだろう」


「…え」
「なん、」


ナマエの言葉にポカンと口を開けたのは、何も男たちばかりではない
チャカもまた、開いた口を塞がれないでいた



「ほら来いチャカ 何をぼぅっとしている」
「……! え、えぇ」

服を引かれ漸く我に返ると言う失態
チャカは慌てて先を歩くナマエの後に追いついた。背後ではまだ何か喚き散らしている男たちの姿があったが、もうナマエは気に留めていない



「ナマエ、今さっきのカッコ良かったぞ」
「そうか?当然のことを言ってやったまでだ」
「そこがイイんだろ? な、チャカさん」

コーザからの相槌に、チャカは「あ…」と言葉を区切った
そして急いで「は、はい」とナマエに向けて伝える。主は、とても満足そうに笑った


「…有難うございました、ナマエ様。私のような下の者に対し、あのようなお言葉を…」
「そう自分を卑下するような言い方は好きではない」
「!」
「オレの犬になりたいのなら、いつ如何なる時も堂々としていろ。凛々しく美しい犬は、そうするものだ」



分かったな?と首を傾げる主の姿に、狗は「はい…!」と声を震わせた












神は言う
お前はいつでも美しくあれと

私は想う
貴方こそが美しく気高い崇高なる存在であると








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