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エミール


見果てぬ夢だ。


世界を脅かすアラガミ達を全て打ち倒し、明日を生きることへ恐怖すら感じている無辜なる人々に安息を齎す日が訪れるのは、いつになるやも知れない。
出来うる限りその日が早くに訪れるよう祈るだけでは駄目なのだ。日々の研鑽や、我が愛機・ポラーシュターンの手入れを怠らないことは勿論、信頼すべき仲間たちとの協力も欠かせない。
そして任務の後に飲む一杯の紅茶もまた、全てが必要不可欠な要素なのである。

と言うわけでムツミさん、紅茶のお代わりを再度お願いする!




「…エミールと話していると和むよ」

「 むっ!? それは本当かナマエ!」
「うん」


受け取った紅茶のカップを口元に運びながらナマエが微笑んだ。任務終わりだった彼女がゲート前のターミナルで物資補充をしていたところへ紅茶のお誘いをした時は幾分疲労が伺える表情をしていたが、今あの時の様子は見られない。その晴れやかなナマエの顔を見れて大いに満足する。うむ、やはりナマエにはその笑顔のままでいて欲しいものだと常日頃から思っている。うむ、うむ。
一頻り頷いていると、尚も視線を僕に寄越していたナマエが「なんだろう、見てると癒されるんだよね、エミールって」と言ってまた笑った。
 僕は我が耳を疑った。癒される? この僕が? 君を、君という存在を、癒せていると言うのか!?それは



「たまらなく嬉しいではないか――――!!」


「うわっ ちょっと」
「エミールさん!ラウンジではおしずかに!」


諌めてくる二人の声やビリヤード台の前で談笑していたエリナの「エミールうっさい!」の声も全てが僕を優しく祝福してくれる賛美歌のように聞こえて来るではないか! 嬉しい! ああとても歓喜に満ちている! 我が最高のライバルであり背中を預けるに値する素晴らしき友であるナマエから受け取る言葉の全てが僕の血となり肉となるのだ!今すぐに自室へと戻り、日記に委細を書きとめ、ポラーシュターンにも話し聞かせたい衝動に襲われているぞ!


「ナマエさぁん…エミールさんどうされちゃったんですかぁ…?」
「うーん 完全に自分の世界に入っちゃったみたいだね。こうなると長いから、無視してていいよムツミちゃん。あ、クッキー貰える?」
「はい、喜んで〜!」


今なら大型アラガミ十頭とも渡り合えるような気がするぞ! これがナマエの「血の力」なのか! 力が体の芯から湧き上がってくるようだ!


ナマエがいれば、ナマエと共に戦えば、全てのアラガミを殲滅できた未来が来るという確信が持てる。見果てぬ夢になどならない、そう彼女は思わせてくれるのだ。
強く、気高く、慈悲深く、そして何者よりもナマエは美しい。
荒廃しきったこの世界に於いて尚もすべてが輝いている。その魂の輝きに魅せられ、魅入ってしまった僕は、彼女という存在を追うことを止められずにいる。なんと幸福な今なのだろう。こうして、隣に並んで紅茶に舌鼓を打っていることすら女神が与えたもうた褒美なのではないか? ああ、神よ!



「…ぜんぶ口に出してるの気がついているのかな、エミールさん…」
「そこが面白いんだよエミールは」
「そうなんですか?」
「うん。ずっと見てたいぐらい」
「えっ、ナマエさんもしかしてエミールさんのこと…」
「……あっははは! いやぁ〜 どうなんだろね」



――少なくとも、とても頼りにしてる。

きっとその言葉をエミールが聞いていたら、どうなっていたかは明白だった。




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