「きゃああああああ!?」
やけに高い悲鳴が部屋中に響き渡った。もしかしたら外にも聞こえたかも知れない。「馬鹿野郎、静かにしやがれ」その後に聞こえた台詞も怪しく、殆どの者が女性を襲う暴漢の姿を想像するだろう。
だが実際にその事実はない。女性もいなければ暴漢…も、いない。
いるのはどちらとも男だ。一方は険しい顔つきの老人、そしてもう一方は、涙目になっている神様だった。
『な、な、な、何をするんですかマスター!』
「何ってこたぁねぇだろうが。ただテメェの靴を脱がしただけじゃねぇか」
その羽根の生えた靴にもしかしたら秘密があるのかも知れない。
気になったナマエがヘルメスの靴を脱がそうと実行に移しただけで、無体を働こうとした謂れはないのだ。
『だ、だからと言って余りにも強引な…!そんな勢い良く襲いかかられては私と言えどですね…!』
「あー!うるせぇ!ただ裸足になっただけじゃろうが!裸にひん剥いた訳でないのにピーピーと喧しい!」
『ううう何とデリカシーのない!そんなだから女心が分からない、と言って奥様に出て行かれるのですよ!』
「テメェは、野郎だろうが!!」
『そうですけど!!』
まったく、何もやましい事をしたつもりはないのに、ヘルメスが涙目で見上げ、何故そうなった?と言いたいぐらい知らず内に乱れているヘルメスの衣服に本当にナマエの方に非があるような状況に見える。
それに結局、羽根の秘密もよく分からなかった。推測であり、見たてでしかないが、ヘルメスが浮遊しているのにこの羽根はあまり関与していない気がする。やはり神様の特権的な力とやらが関わっているのか…
『マ、マスター!私の身体をそのようにじっかりと見下ろさないで頂きたいのですが!』
「あ?……あぁ、すまん。別にテメェの身体を見てた訳じゃねぇから安心しろ」
『え、なんだ残念……』
「なんか言ったか」
『いえ何も!!』
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