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「#幼馴染」のBL小説を読む
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マールミズガルズ


「夏場は暑いからどっか涼しい所に行きたい」

たったそれだけの理由で、私のマスターは"海澪神"のいるダンジョンへ入って行った。

勿論私は止めた。異を唱え、その発案がいかに軽薄であるかを注意した。だが私のマスターは所謂『お金持ち一家の道楽息子』であったので、返って来た言葉も簡単なものだった。
「大丈夫だ。石なら沢山ある」
よくマスターが使用する、不思議なエネルギーが込められた虹色に輝く石のことだ。その石には様々な効力があり、敵モンスターにやられパワーが無くなってしまってもその石を掲げるとたちどころに力を取り戻すことが出来る。ごり押しで行け、とマスターは仰りたいのだろう。ああ無謀だ。私は同じパーティーの仲間たちと共に顔を見合わせる。『どういたしましょうね…』百合の花を抱えて苦笑するガブリエルの横で青ソニアもやれやれと溜息を吐いている。

『どうにかしなよ、執事さん』
『ドウニカト申シテモ…』

「おいマール!ちょっとこいつ見てみろ!」

――ん!?
今まで目の前にいたはずのマスターの姿がいなくなっていた。慌てて声のした方向へ目とセンサーを向ければ、「ここにもマールミズガルズがいるぞ!」 あろうことか、恐らく、ダンジョン一階層のボスであろう敵の"蒼の機神将・マールミズガルズ"を指差して笑っておられるではないか。


『マ、ママママスター!!!』
『お坊ちゃん何してらっしゃるんですか!』

『……防衛システムヲ起動シマス』
「おお動いた。でもお前ぎこちないなー」
『…敵影ヲ補足』
『近付イテハ イケナイ! マスターハ私ノ後ロヘ!』
「見ろ、俺のマールのこの人間臭さ」

何を張り合っているのか、マスターは私の背中に隠れながらも相手のマールミズガルズへの挑発?の手を緩めない。激昂して襲いかかって来るような相手でも無さそう――何故ならあれは私と同じゴーレムだ――ではあるが、戦うのは我々だ。右腕のパイルバンカーを構え、相手の動きを牽制する用意をし、いつでも撃てるよう"ヘイルストームシュート"へのエネルギー補填を実行しておく。


「こいつはいつからこのダンジョンの番人になったんだろうな」
『このダンジョンが発見されたのは最近の事のようですからね、詳しいことは未だ知られていませんよ』
『なんだい坊ちゃん。こっちの執事だけじゃ飽き足らず、このデカブツのことも気に入ったってわけ?』
「ああそうだな、やっぱり何回見てもマールミズガルズはカッコイイ。見てると俺の少年心が燃える」
『…散々暑いのは嫌だから涼しいところ行きたいって言ってたくせに…』


そうやって無駄話をしているから、相手の方から牽制射撃を食らわされるのだ。落ち着いて"防御の構え"で皆への被害を軽減し、ガブリエルがすかさず辺りに満ちていた闇のエネルギーを回復エネルギーに変換する。好戦的な青ソニアは嬉々として番人に立ち向かって行ったが。

『ゴ無事デスカ マスター』
「おう。でも惜しいなあ。今俺が欲しいと思ってるのはヨトゥンなんだよ」

暑いのは嫌だから涼しいところへ、と言ったり、心は熱く燃えると言ったり、火属性のヨトゥンが欲しいのに水系統のダンジョンへ来ていたりと全くこのマスターは相変わらずの道楽者っぷりを発揮してくださる。


『…ナラバ、"彼"ハモウ 破壊シテモヨロシイノデ?』
「いいぞ?」
『デハ彼ヲ倒シ、モンスター達ノ注意ヲ逸ラシマス。ソノ隙ニ コノだんじょんカラ離脱シマショウ。今ノ我々ダケデハ道中進メナイデショウ』
「うーんマールが言うんなら仕方ねぇな。お前らだけで無理そうだってんならそれもっと早く言っておいてくれよ」


そんなことはとっくに言っておいていた。


『……"ヘイルストーム シュート"!!』


弱点である胸部のコアを外部装甲ごと撃ち抜けば、相手のマールミズガルズの体は支えを失いグラリと前方に傾いた。対峙していた青ソニアがひらりと舞い戻って来る。ガブリエラも結局使わなかった剣を仕舞いながら『木っ端みじんこですねぇ。お怪我はありません?坊ちゃん』「ない」と気遣っている。

ふう。背中に隠しておいたマスターの体をセンサーで確認する。言うように怪我はないようだ。服についていた砂埃は今払い落としておこう。

『デハ戻リマスヨマスター 長居シテハ危険デス』
「んー涼しかったのになー。今度はどこ行って避暑するか…」

『おやぁ?』

『どしたのガブ』
『お坊ちゃん、見てくださいな。あそこに落ちてあるの卵じゃありません?』
『ナニ!?』
「ん?」


 ガブリエルの言うとおり、先ほどまでマールミズガルズが倒れていた場所に、大きなゴーレムはおらず、代わりに金色に輝く卵が落ちてあった。大変だ。嫌な予感がする。積んである大量のセンサーが信号を打ち出し続けている。 そしてその卵を呑気に拾い上げるマスター。


「やっべ、もしかしてこれ二体目のマール来ちゃう?」



『売却シマショウマスター!!街ノショップデ売リ、旅費ノ足シニスルノデス!!』
『まあとても必死ですね』
『そりゃあそうだろうな。ボクだって赤とか緑とかが合流したらって思うと角がヒクヒクする』
『はあ、そう言うものなのですか』


「あっしかもこいつプラスついてね?」
『ソニア!!貴方ガ食イナサイ!!』
『執事さんハイパーだもんね。オール297カッコイー』
「ガブが食ってもいいぞー」
『ごめんなさいお坊ちゃん。私鶏肉しか食べられないんです』
『ちょっと、それ言うならボクはあの人面フルーツしか食べられないってことじゃん』


三者三様、ああだこうだと論じては 金色卵の処遇に悩んでいる。
恐らくあのゴーレムも、卵の中で居心地悪く待っているのか、それとも何も知らずにスリープモードに入っているのかも知れない。

売るか、食うか、はたまたボックス行きか、卵は今もナマエの手の中にいた。











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▽終わったあとのキャラ設定
・蒼の機神将・マールミズガルズ
ナマエ家に仕えている最強ゴーレム。ハイパー。アイスゴーレム時代から自我が確立しており、以後ナマエの執事兼壁役・アタッカー・ワンパン要因として腕を振るう毎日。因みに男性型。最近友人であるアースゴーレム(♀)が人間の男に恋をしていると風の噂で知る。

・神導の大天使・ガブリエル
物腰の柔らかな天使サマ。お坊ちゃんの教育係。自称:美食家 こかとりすのにくしかたべない。あとお花。イチタリナイ

・永劫の青龍喚士・ソニア
ボクっ子。好戦的で大体怪我したのを治すのはガブリエルの仕事。ワンマンズアーミー



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