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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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CB


『最近、人間に尾けられてるんだよなァ』
『………え、えぇぇ…?それジャガイモの皮剥き中に言うことッスか…?』
『大事じゃないかそれ。CBに何か用があるからって感じとかじゃあないんだろう?』

自惚れでなければその存在は確かにCBの背後に付き纏っていた。正面スクリーンとは別に、背甲部分に仕込んである索敵レーダーがそれを感知している。

若い、人間の男。

容姿も背格好もこれと言って特筆すべき特徴は挙げられない。強いてポイントをあげるならば、喫茶店にやってくる客同様に、「線が少ない」ことだろうか。子どものらくがき染みた顔の男は、買出しに出ているCBのことをじっと見つめてきていた。CBが何時に仕込みに出かけるのかも熟知しているみたいだった。息を潜めて隠れている姿は、どうにも恐ろしい。幾ら相手は生身の人間とは言え、理解のできない行動は恐怖を生み出させる。


『どこかの国が遣わせたエージェントとか?』
『オレ、何処からも狙われるような真似してないっすよ。極めて健全かつ真っ当に生きてるコックロボットなのに』


ホール長や厨房のヤツも一緒に「うーん」と悩んでくれているが、推測も成り立たない。データが少なすぎるのが原因だ。



 カランカラーン


『あっベル鳴った。お客さん来たッス』
『お、じゃあ接客してくる。CB、あんま悩むなよ』
『そうそう。いざとなったらレールガンで焼き払ってやればいいッスよ。世間様にバレない程度に』
『ああ分かった。でもまあ平気だろ。オレ、ロボットだし』







『お、お客様…それは一体……』


『……ん?』『なんだ?』


聞こえて来たホール長の困惑した声に、CBと厨房のヤツは顔を見合わせる。
持っていたジャガイモを放り出して、来店した客と応対していたホール長の元へと駆け寄った。

そこにいたのは、ピカピカの黒スーツに身を包み、真っ赤な薔薇の花束を抱えた一人の男性


「いい加減じれったくなりましたので、強行突破に来ました」
『はあ…?』


――あれ?

CBは、その男の顔に覚えがあった。
いや待て、もしかしてこの人間は…


『あっ!!オレをストーキングしてた人間コイツだ!!』
「以前来店した際に見かけた時から好きでした一目惚れです付き合ってください!!」


重なった二人の台詞の内容に思考が停止すること数秒
沈黙が落ちる。男がCBへと差し出した薔薇の花束がかさかさと揺れる音だけが、この異様な光景に響いている。


『…ちょ、…え?CBに、一目惚れした…?に、人間がッスか…?』

厨房のヤツの言葉に、男が顔をボッと沸騰させる。そして顔を覆いながら、一気に捲くし立てた。

「や、やっぱロボットに花束贈るのとかって間違ってたんですかね…!オイルとか、そういうのが良かったんでしょうか! いや俺だって悩んだんです!後を尾行して、何か少しでもロボットの趣味に合いそうなものを知れないかって思ってたんですけど、もうどんどんCBさんへの気持ちが膨らんでいくばっかりで生きるのが辛かったって言いますか、昔レイヴンだった頃の血が騒いでしまって…!!」

『いやそれゲームの話だよな!?』
「CBさん!!」
『ハ、ハイ!?』
「好きです!俺と付き合ってください!」
『ちょっと待って何この展開!?』

『CBが…人間に告られてるッス…』
『どうする…マイロードを呼ぶべきか…?』

「毎日貴方にオイル貢ぐ男になりますから!!」
『お客さん少しオレに状況判断する時間と考える時間をくれるかな!?』





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