女子にはよく「ねぇ烏丸君。私の話聞いてる?」と聞かれるが、本音を言えば「全く聞いてない」。
何故って、聞く価値もない話ばかりだからだ。
昨日のわたしがどうだった だの、
あのドラマの展開がこうだった だの、
烏丸くんかっこいいね、彼女いるの?だの全部、
「うざったい……」
回想をしていて思わず出てしまった呟きに耳聡く反応してきたのは、隣のスペースでトレーニングをしていた高森先輩で
「お〜?烏丸クン、どしたの〜?」
いつものような厭らしい口調とからかいの眼で様子を窺ってくる。
この人の視線もうざったい。あんまりオレの方を見ないでほしい。
訊ねてきた高森先輩のことを無視し続けていると、先輩はキレた様子で何事か(多分オレの悪口)言ってから別の場所に行った。よかった。
野球施設、設備共に充実している強豪校の丘山学盟館高校に入学できたのはいいことだけど、人間関係と言うんだろうか、それが中学よりも面倒くさいものになってしまった気がする。
中学校では、殆どの生徒が同じ小学校から上がってきた奴ばかりだったから、オレが「こんな性格」であることは理解していた。だから女子が会話を振ってくることも殆ど無かったし、部活メンバーとも のらりくらりと接することが出来たのだ。
けれど高校はそうじゃない。
色んな人間が色んな場所から集まってきているせいで、様々なことが昔と違う。
オレはただ、「オレが神であり続け」ている上で「野球」がやれていれば人生それで良いのに。
…ああ、あとナマエが ずっとオレの近くにいてくれたんならもっと人生良いかもしれない。
「……ナマエ召喚」
「誰がそんなので召喚されるか」
「…あ、召喚されてる」
「されてねぇよ。たまたまだ!」
念じてたらちょうどバックネット越しにナマエが現れた。なぜ?ここはバスケ部の部室じゃなくて、野球部のグラウンドなんだけど。
「試合で使ったストップウォッチ5個を返却しに来たんだよ」
「……あー、そ」
別になにかを期待してたわけじゃないからいーけど。
「…んでそんなローテンションなんだ?」
「…そんなテンション低そう?」
「いつも以上にな」
ナマエの姿を見つけたマネージャーの女子が駆け寄って来た。
「あ、これありがとうございました」と言ってストップウォッチを彼女の手に乗せてあげているナマエを見ていると、だんだんムカムカしてくる。
だからわざとに咳払いをしてみた。ナマエはすぐに怪訝な顔してオレを見てくる
「よし」
「いや、何が『よし』なんだお前」
「いいから」
「…あっそう」
ナマエが返したストップウォッチを持ったままのマネージャーが「烏丸君が超喋ってる…!」なんて言っているが、オレの方を見るのはやめてほしいし、早くあっちに行ってもらいたい。
「じゃあ俺、体育館戻るから」
「ナマエが行くのはだめ」
「部活あんだから行くわ!! おいユニフォーム引っ張んな莉吾!伸びる!」
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