ディノアス
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・
・オレは『ゴーレム』だ。
だが、人間が持つ"感情"と呼ばれるモノのことは理解できている。
ライルのように「怒る」ことも、
リュミールのように「笑う」ことも、
花梨のように「呆れる」ことも、
ゴルバンのように「見守る」ことも、全て出来る。全て可能だ。
だが分からないことは、
何故そうやって、ナマエがオレを見て「泣いている」のかだ。
「死なないで」とはなんだ。
そもそもオレは、厳密に言えば「生きている」のではない。「動いている」と言うのが正しい。なのでオレは死ぬのではなく、ただ動かなくなるだけだ。
「行かないで」とは分からない。
オレはどこにも行くつもりなどない。ナマエが望む限り、オレはナマエの傍にいると誓った。だから安心するといい。オレはナマエから決して離れない。
「好きなんです」
ほんとうか。信じていいのか その言葉を。
ナマエは、ゴーレムであるオレのことを好きでいてくれているのか。ああ、なんていうことだ――
今からオレは 眠りに就くというのに
相変わらず、タイミングを掴むのが下手くそだな、 ナマエは
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・
・これは長い長い夢の続きだと思っていた。
ライルが縮んだと思えば、それはライルの息子であった。
少し大きくなったライルの隣で微笑んでいる女性は、髪を切ったリュミールだった。
いつか見た母親のように美しく成長していた花梨の隣には、一角を生やしている男、ユークルフが立っている。
変わらぬ笑顔で立つゴルバンの隣では、いつもの表情のルナティエがいた。
『遅かったわね』と通信が入る。
『アンタが眠りについてから、あの子、ずっと泣いてたんだから』
あの子、 ルナティエがあの子と呼ぶ者、ああそうだ オレには、
とても大切に思っている、 女の子がいたのだ。
「ディノアス…!」
――ひどく懐かしい声だ。
泣き腫らしたような赤い眼が、じっとオレを見つめて来る。
喜びと感動で感情が綯い交ぜになったまま、そこから動けずにいる彼女の背中をルナティエが軽く押した。
『ヒロインならここで、目覚めたゴーレムを抱きしめに行くものよ』
彼女が戸惑いを見せている。 手が、左右あちこちに動いている。
なんという目覚めだろう。彼女に、抱きしめてもらえるのか。
この硬く、冷たい、鋼鉄の身体を。彼女に、
『………、…ナマエ、…に……』
ほら、ムッツリ野郎が起きたわよ。
ルナティエの言葉を聞くよりも先に、 ナマエがオレを抱きしめた。
「おかえりなさいディノアス!」
――ああ、
『……10年経っても、 お前が一番キレイだな ナマエ』
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