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今日はホストのたまの休日だったようで、珍しく朝から食堂に姿を現した。
先にテーブルに着いて朝餉を食べていた画家が「こっち座れよナマエ!」と促すと、ホストは「深瀬さん久しぶりっすね〜」と言っていた。

あまり話している姿を見なかった二人だが、どうやら仲は良いようだ。
昼夜逆転生活をしている多忙なホストと、旅をしている画家とでは積もる話もあるんだろう。

若干二人から置いてけぼりにされているけど、二人の話は傍から聞いている分にも面白かったので良しとしよう。それにるり子さんの飯は相変わらず美味い


「こいつはよぉ、実家の神社の連中から勘当されてるんだぜ」

「えっマジすか」

「まあな〜」


画家が笑いながら教えてくれたことに驚きで返す。ホストは何ともなさそうに相槌をしたけど、俺が驚いたのは"勘当"の部分と"実家が神社"と言うところだ。


怒られるだろうなとは思ってた。でも訊かずにはいられなかったんだ


「…もしかして、生まれが神社だからココの妖怪とかにも慣れた感じだったんですか?」

「あーまあ、そうだな。"おんなじようなモノ"ならクリぐらいの年ん時から見えてたし」


でもホストは"それ以上の興味"を持たなかったようだ。
神主として実家を継ぐことも嫌、堅苦しい形式に当て嵌められた実家にいることも嫌、だったそうで高校入学と同時に家を出て、全寮制だった男子校に移ったのだと言う
「夕士君とちょーーっと動機は似てるよな」と言ったホストに確かにと頷き返した。

運ばれて来たるり子さんの料理に顔を喜色満面にしながら「ありがとるり子さーん!!」とキスを返している。るり子さんはモジモジと指を動かしているけど、なんだか嬉しそうな気持ちが伝わって来るので微笑ましく見ていることにする


「未来安泰の神主の仕事蹴って、裏通りのホストクラブでナンバー1ホストやってるとかナマエも大概人生楽しんでるよな」

「深瀬さんに言われたくないっすよ。 あー俺も金を早く溜めて諸国漫遊の旅に出るんだ!」

「ははは、がんばれよ!どうせなら俺のバイクの後ろに乗っけてやってもいいぜ」

「シュガーに怒られちゃわないっすか?」


「でもどうせならるり子さんとの結婚資金に宛てるのもいいよなぁ…」そう言ってホストはチラチラと厨房で忙しなく働いているるり子さんの方を見た。…口はだらしなく緩められてるのに、目があまりにも真剣そのものだったから揶揄えなかった。…いつかやりかねない。このホストにはそう思わせられてしまう



「あー、そうだ!今日うちの実家から届いた梨があったんだったわ」

「え? さっき勘当されてるって…」

「勘当したのは親父だけでお袋は今でもたまに仕送り送ってくれんだよ。内緒でな」


親父にバレると怖いからやめろって言ってるんだけどな、いっつも
口ぶりとは裏腹にホストは嬉しそうにしながら自室へと件の物を取りに行った。画家は隣で「梨か!あいつんとこの梨はクッソ美味ェぞ!」と嬉しそうだ。

段ボール箱を腕一杯に抱えたホストが食堂に現れる。
「るり子さーん!!俺の実家で取れた梨、良かったら貰ってくださーい!」
ドン!と置かれた箱の中を窺うと、確かに大ぶりで色も艶々の梨がいっぱいに入っていた。
早速るり子さんはホストから梨を受け取りながら、どんなメニューにしようかと考えているらしい。これは昼のおやつタイムが楽しみだ。


るり子さんと笑顔で談笑しているホストの姿を見ながら、ふと何となく思った疑問を画家に訊ねてみた


「…ナマエさんって、もうその実家に戻るつもりはないんすかね?」


本当に、ただなんとなく言ったその疑問に、画家はやや真面目な顔でこう答えた。


「戻る気はねぇだろうな。アイツはもうこの場所での暮らしを体に染み付けちまってる。それに、るり子が此処にいるんだ。今さらどこにも行くつもりは ないんだろうよ」



"ここでの暮らしを体に染み付けちまってる"、か。
それは確かに、俺にも分かるような気がした




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