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映画泥棒


クネクネとした動きで俺のことを追尾してくるその姿は、きっと俺を"からかって"いるものだろう。

どこか演劇チックで、パントマイムをしているような独特の動きは、俺でなくとも町の人々の視線を釘付けにしている。大槌で容赦なく打ちつけるような力強さの釘は、気のせいでなくとも俺に対しても向けられてる。
「あの変な人間、いや人間なのか?まあ仮に人間としておこうあの妙な人間に追いかけられているこの普通の人間は、一体何なのだ」
人間、と言う単語がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。それだけに俺を追尾してくる"そいつ"はおかしい。

もう視線に耐えられない。「ちょっとこっち来い!」咎める口調で強く呼びつけ、やけに大人しくなったそいつの腕を取った。
しっかり洗濯されているらしい黒スーツの上からでも分かるぐらい、そいつは細かった。




「あんたは何のつもりで映画館からずっと俺の後を追いかけてくるんだ っつーかなんだその頭は!」


どうして一昔前のホームビデオみたいな感じの頭してるんだ。コスプレか


詰め寄った俺に、後ずさりはするが逃げ出す様子はないそいつは――頭がビデオカメラだった。

どう言うこっちゃねんと思わず故郷の言葉で叫びたくなったが、ここは天下の大都会・トウキョウ
きっと俺の知らない文化があって、趣味嗜好があってだと思うからそこを重要視はしない。最も知りたいのは何故このビデオカメラ男が俺をストーキング――しかも堂々と、あからさまに――したことかだ。


『………』

「……何か言えよ、喋れるんだろ」

『………』


…喋らない。おかしいだろ。
その被り物の下にはちゃんと人間の頭部があるハズだ。口があって間違いじゃない。
 まさか、謝罪も弁明も説明もするつもりがないとか言うのではなかろうか。なんと無礼千万な奴


「……………」

『……、…』

「! おい、誰がモジモジしろと言った!」


染み一つない真っ白な手袋で包んだ細い指を胸の前で交差させたそいつは、顔を――顔?――俯けさせ足元に目を……いや、レンズを…ややこしいなもう!


「俺が何かあんたの気に障ることしたのか? ただ映画館で隣の席になっただけの関係だろう!」

『!』

「反応したな? やっぱりそれが関与してたのか? 俺は静かに映画を見てたつもりだが、何かの行動があんたの邪魔になったと言うのか」


そこでそいつは初めて反応らしい反応を見せた。
フルフルとビデオカメラの頭を左右に振り、『それは違う』と言うように左右の手も同時に振る。器用な動きだった。 だが、その行動が"否定"であることは分かったが、真意が分からない。


『……、……』

「……………」

『…』

「…言いたいことあるんやったらちゃんと口使うてハキハキ喋らんかいこんドボレカスがァ!!!」

『はいっ貴方の映画観賞スタイルがとても私のタイプだったのでこれも何かの縁かと思い交際を迫ろうかと考えておりました!』

「ア!?―――…アァ!?」

『ヒィ!も、申し訳ないです!あ、あとその、私の眼は一応このレンズになるのであまりお顔を近づけないでもらいたいです照れます!』


俺の映画観賞スタイルが好みのタイプだった!?それはまた変わった着眼点と言うかそんな変わったスタイルなんかしてなかったと思うんだが、それよりもようやく口を開いたこいつは"男声"だった。男かよ。いや黒スーツとは言え細くて小柄だったからてっきり女性なのかとも思ってたのだが


『…あの…私あの映画館にはよく足を運ぶのですが、貴方のことをお見かけしたことはありませんでした。引越し…されて来たのですか?』

「あ、あぁ…先週ぐらいに、まあ…」

『そ、そうですかぁ…! 映画、お好きなんですか?』

「まぁ…好きですけど…」

『私もなんです!映画って、撮るの楽しいですよね!』

「は? 撮る?」

『――あ!! い、いえいえいえこれは何でも…』

「あんた、映画監督の仕事をやってるのか!?」

『そう来ますか!』




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