人間の分際で死神のゲームが見えることはまあ百歩譲って眼を瞑っていてやっても良い。コンポーザー、ゲームマスターから「消せ」と言う指令がない限り、参加者や死神たちの邪魔や妨害行為さえ行わなければ見過ごされることがある。
だがナマエは、邪魔や妨害行為云々ではなく普通に話しかけて来るのだ。普通の人間には見えない死神に話しかける人間なんて奇異な目で見られるだろうに、ナマエはそれを気にもしないで話しかけて来る。しかも時たまデスマーチのライブを観戦に来るのだ。こう言っては何だが
「お前、バカじゃないのか?」
「BJに言われたくないんだけど!」
俺が言いたかったことを先に言ったBJとナマエがいつもの喧嘩を始める。ライブ後の俺たちは気分も昂ぶっていていつもなら無視するナマエのこともついでとばかりに構ってやるかと言う気になるのだ。まあライブ後でなくともBJはよくナマエに話しかけているが。
汗を拭っていた777が声のトーンを上げて、「ナマエもこの後の打ち上げ来るか?」と誘った。すぐにナマエから歓喜の声が上がる。
「行っていいのか!?」
「おい777まじか!?俺たち以外の死神もいるっつーのに…」
「ま、大丈夫じゃね?ナマエはしぶとい奴だしな」
「さんきゅー777!デスマーチのいる打ち上げに参加出来るとかやっべー!」
まだ777に本当にいいのかおいと詰め寄ってるBJの後ろでナマエは手を振り上げ喜んでいる。そんな事でこんなに喜ぶなんて、あまり興味はなかったが、ナマエが今までどんな寂しい人生を送って来ているのかが気になった。
「テンホー? どうしたんだ?」
「……ん?いや、別に何も…」
「そうか?いつにも増して口数が少なかったからさー」
「テンホーが静かなのは普段通りだろ。お前がうっさすぎんだっつの」
「BJのがやかましいぞ」
「なにっテメェー!」
再び始まった二人の取っ組み合いを止めた777が「オラ行くぞー!」と号令を掛ける。渋々、ナマエの髪の毛を引っ張っていた手を放し荷物を持ったBJと、BJのバンダナを掴んでいた手を放したナマエが何故か俺の手を取る。
「な、なんだよ」
「テンホーが疲れてるように見えたから、俺が荷物持ってくよ」
「え…だ、大丈夫だ。これぐらい…」
「でも疲れてんのは当たりだろ?」
「…っ」
パーカーのフードの中を覗き込んでくるナマエの視線から逃げるように眼を逸らす。俺たちの顔は普通の人間には見えない筈なのに、ナマエには見えてしまいそうで怖くなる。
見られたくないぞ。 こんな、赤くなってる顔なんて。
「…じゃあ、バッグだけ」
「おっしゃ任せとけ!」
「………物好きな奴」
「しょうがないだろ! 俺はテンホーが好きなんだからさ」
「………、……」
本当に、バカなやつ。
俺たちは死神で、もう死んでいる存在だ。なのにナマエは、"今"を生きている人間のくせに俺なんかを好きだと言う。いつもいつもそれを伝えてくる。不必要なんだ。お前からの愛なんて。俺は777やBJと一緒にデスマーチで音楽を一緒にやれて、死神ゲームの参加者たちに関わって、つつがなく生きていれるだけで良いのに。
ナマエのような異分子存在が、それをもし壊しでもしたらどうしよう。
ナマエがこのまま俺たち死神と多く関わったせいで、ゲームマスターたちに邪魔だと認識されたらどうしよう。
どうしよう
どうしよう
「……俺みたいなのを好きになったりして、絶対に後悔するからな」
「それでもいいよ。先のことなんて知らねぇ。今の俺がテンホーが好きなんだから、しょうがない」
"しょうがない"
俺も、ナマエのように "しょうがない"で割り切ってしまえれば、どれだけ楽になれるんだろう。
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