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「#幼馴染」のBL小説を読む
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オルグ



就寝用のテントに戻り、休息をとっているミカヤのもとを訪れるのは止めることにした。
きっと彼女は疲れている。フリーダがミカヤを探していたから、善意として手伝っていたに過ぎない。フリーダには申し訳ないが、ミカヤはもう眠っていると伝えておこう。暁の団にいた頃から、彼女は少し無理をし過ぎる面があった。サザも苦渋を示していたことがある。デイン解放軍という大人数の兵士たちを先頭に立って指揮するということは、ナマエが考えている以上の労力を要するのだろう。

ナマエは一ソルジャーに過ぎないが、既に激化する戦争に実力だけでは付いて行けなくなっている。今日は死ななかったけれど、明日は死なない保証はない。槍を握る手が震えないようにしなければ。祖国デインを解放してみせるのだ。自分たちの手で


だがしかし…ナマエの心境は複雑だった。

エディやレオナルドと共に軽い手合わせをしていたあの頃よりも直に"戦い"と言う命の奪い合いをしている今の状態が、ナマエには心苦しくなるのだ。決して戦いが好きだから槍を持つのではない。あくまでも未来、そして祖国の為に戦うのであって、好き好んで命を奪いたくはない。言葉は軽いが、言ってしまえば『疲れてしまう』 押し寄せる疲労感は蓄積するばかりである。




現在は行軍中であるため、夜は野営できる場所を探して簡易テントを張る。見張り番の兵士が敬礼をしてくるのを恐縮しながら受け止める。「銀の髪の乙女」と同郷の出だからと言って、そこまでしてくれなくとも良いのに。草地の匂いが香る道を歩きながら、着用していたヘルムを脱ぐと少し楽になった。このまま仲間たちの待つテントに戻って休憩するだけなのだが、あともう少し外にいて風に当たろうと考えた。どこか丁度いい場所はないかと探す。

するとふと、そこはさぞかし気持ちが良いのだろうなと確信を抱ける場所を見つけた。
先客がいて、その先客が柔らかそうな草の上で横になっているのだ。なぜか笑いがこみ上げてくる。あまり音を立てないよう注意しながらそちらへと歩み寄る。
道半ばまで歩いた辺りで、先客はナマエの存在に気が付いたらしい。ピクリと尻尾が揺れ、精悍な顔立ちの狼がのそりと起き上がって目の中にナマエを捉えた。


「こんばんは、オルグさん」


コクリと頷いて返事をした寡黙な狼さんは今の今まで眠っていたのだろうか、と疑問に思ったがその前に「お隣いいですか?」了解を得るのは容易かった。
大きな体の狼はゆっくりと起き上がり、ナマエ用のスペースを作ってくれる。
しかしそのまま立ち去りかけたので、慌てて引き止めた。 行かないでほしいと伝えると、オルグは疑問を浮かべながらもその懇願に答えてくれた。再度草地に寝そべったオルグにほっとする。 ナマエは話し相手が欲しかったのだ。それがオルグであろうとも、誰でも。


「珍しいですね、オルグさんがニケ女王やラフィエルさんのお傍を離れてこんなところにいるなんて」


オルグからの返答はない。重々承知だ。オルグは現代語を話すのが苦手だし、ナマエも古代語を使えない。ミカヤのように相手の心を読むことも出来ないため、この狼戦士ともコミュニケーションは取れないということは分かっている。

オルグさんだって、一人になって休みたいときもあるんですよね、と勝手につけた結論を口にすれば、オルグは頷いてくれた。当たっていたようだ。嬉しい。じわじわと、自分の顔に笑顔が生まれるのを自覚する。


「ここは気持ち良い場所ですよね。三日前の野営地なんて、整備されてない山道でしたし、やっぱり平地が一番だって思っちゃいます」


どんな場所でも休息を取れる兵士になるには、どうすれば良いのだろう。ラグズの皆さんはそんな苦労なんてしなさそうだな、と思っているとオルグはまた頷いてくれた。フサフサとした尻尾がパサリと揺れる。草の感触を確かめるような尻尾の動きに笑った。



「綺麗な夜気を貰って、また明日も頑張りましょうね オルグさん」


明日は、上手く行軍が進めば王都に到着するはずだ。 それはつまり、この戦いの終着点でもある。ミカヤがいるからきっと勝てるなんて思わない、自分もその中の一人の戦士として奮起するのみだ。またオルグが頷く。今度は、ナマエの顔を見るようにしながらの返答だった。


しばらく言葉無く月夜を見上げていると、寝そべっていたオルグの耳がピクリと動く。
顔を上げて背後を見たオルグに釣られてナマエも振り返る。

ミカヤが立っていた。 それも、笑いながら。



「ごめんね、ナマエ 邪魔をするつもりはなかったの」

「…私を驚かそうとしたんでしょ。顔からそれが滲み出てるわよ」

「だって、ナマエさっき私のテントにまで来てたんでしょう? 何か用事でもあったのかしらって起きて探してたのに、オルグさんと並んで月見してたから」

「違うの。フリーダがミカヤを探してたから手伝ってただけ。行くべき場所を間違ってるわよミカヤ」

「え、そうなの?なにかしら…」


ミカヤの顔は夕刻に見かけた時よりも血色が良い。きっと、キチンと休息を取ったからだ。

フリーダを探そうとするミカヤに「私が連れて行ってあげるから」と進言し、
隣で同じく、休憩は終わりだと言うように狼の姿から人間の姿へと化身したオルグに「時間を拘束しちゃってご免なさいでした、オルグさん」と声をかける。
相変わらず、オルグは無言だった。


するとミカヤがフフ、と笑う。


「ナマエ」

「なに?ミカヤ」

「オルグさんがね、"ありがとう。楽しい時間だった"だって」

「えっ」


ミカヤに気持ちを代弁されたオルグは、驚いてオルグの顔を見上げたナマエからの視線に恥ずかしそうに顔を背け、ニケやラフィエルたちのいるテントへと戻って行く。

思わずミカヤに詰め寄ってしまう。


「本当? ほんとにオルグさんそう言った?」

「ええ、本当よ」

「…う、わぁあ……どうしよう、明日もすっごい頑張れそう…」

「……ナマエ、がんばるのは良いけど無理はしないでね」

「分かってるよ でも……あぁぁどうしよ嬉しいなぁ…」

「…ふふ」

「…笑うのは無しよ、ミカヤ」

「ごめん、ごめん」




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