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不破大地


「不破 俺が今なにを考えてっか当ててみねぇか」

「そんな実りのない事に時間を潰す暇はない。俺は忙しい」

「お? そんな小難しい理論書を読むことの方が有意義だってか?お?」

「それに、分かりきっていることを敢えて言葉にするのも面倒だ」

「ンなに言うなら言ってみろやボケぇ!!」

「誕生日だから祝え と言いたいんだろう?」

「その通りです不破様幼馴染を構ってください暇なんです一生のお願いです」

「ふむ……"一生のお願い"か…。 それはつまりこの時が、ナマエが他人に懇願の姿勢を見せる最後の姿と言うことになるわけか。感慨深い。良いだろう、時間を割いてやろう」

「カンシャします〜」



今日は俺の21回目となる誕生日だ。

小さい頃からの幼馴染である不破は5歳の頃すでに「なぜ誕生日と言うものは毎年やってくるのかが不思議だ。いつか解明する」なんてことを言っていたけど、もちろん俺はただの凡人なわけでそんな難しい面倒くさいことは考えたりしない。純粋に周りからの祝いが欲しかった。

誕生日の日にわざわざ他人の家を訪問すると言う厚がましさ、おこがましさなんかは不破家に関しては抱いたことはなかった。昔からそうして来ていたから、21になったからと言って不破家に来るのをやめるなんて選択肢も生まれない。去年も一昨年も来たし。


毎年のごとく、まず俺の存在を蔑ろに――嫌がらせとしてやっているんではない――するところのある不破は読んでいた分厚い理論書を机の上に置いて、「暫く待っていろ」と言い残して廊下に出て行った。床に座って待っていると、再度ドアが開く。帰って来た不破ではなく、不破のお母さんの乙女さんだ。


「お誕生日おめでとうナマエくん〜」

「あざます乙女さん!」

「お祝い料理たくさん作ったから、今日も食べて行ってね」

「うわぁ嬉しいっす!いただきます!!」

「じゃあ下で待ってるからね。 あら大地、どうして後ろで立って待ってたの?」



乙女さんの後ろに気配なく立ってた不破の姿は俺からは丸見えだったけど、乙女さんは吃驚したらしい。
もう、あまり驚かさないでねと言い残して階段を下りていく乙女さんと入れ替わりに不破が自室に入って来る。
「さて」目の前に胡坐を掻いて座った不破が口を開く


「ナマエの言うように"構って"やる。何を所望だ」

「え、なんだよ素直に受け取るなんて……乙女さんが料理作って待っててくれてんのに、後ででもいいって」

「本当に今でなくても良いのか」

「おうってば」

「一生のお願いだと言っていたのに」


立ち上がって一階に向かおうとしてた俺に、未だ座ったままの不破が珍しく食い下がる。
例年通りなら、俺がプレゼントよこせと言えばいつも頓珍漢なブツを贈ってくれていたけど、どうも今年はその限りではないらしい。色彩の濃い両目が俺を下から睨むように見上げてくる。臆することはないけど、違和感があった。


「そりゃもういいから。 ――あ、そうだ。なら今度の水曜に買い物付き合えよ。それがプレゼントにするし」

「水曜? それは無理だ」

「? どうしてだよ 今は練習もないオフシーズンだろ。知ってんだぞ」

「明々後日の火曜日から、俺は海外に行く」

「はーそうか、海外に行く…………か、いが、いぃい…!?」



最後のい、の部分で勢いよく足を滑らせた俺は、そのまま仰向けに倒れることになった。いつもの無表情のままこける俺を見送っている不破の顔が見える。後頭部強打 脳が揺れて吐き気がしたけど、それどころじゃなく追求せねばいけないことがある


「海外!?おいなんだそれ! あ、また韓国とかか?中学の頃に行ってたよなお前、サッカー部の関係で。今回もそれか」

「違う。黒須の勧めでイタリアに行って来る。外国選手の生のデータを集めたいと言えば計画してくれた。向こうの大学に暫く籍を置く」

「犯人は京介かよ!どんくらい居るんだ、そっちに」

「予定では三年だが、二年で終わらせられると推測している」

「わー優秀ー…じゃないだろ!マジか。お前それはまじか」

「マジだ」

「ドッキリとか言ったら胸倉ガン揺さぶる」

「謀りではない。安心しろ」

「出来るかー!」



多分、乙女さんや大陸さん達はとっくに俺の叫び声を聞いていて上で何が起きてるのかに気付いてんだろう。それすらにも憤慨が湧く。もっと早くから教えてくれていればどうだったと言うわけでもないけど、浅からぬ縁がある俺に明々後日に迫った留学のことを教えてくれなかった不破にもうなんと言うか激おこだ。


と、言うよりもとどのつまり俺は猛烈な寂しさに襲われている なう



「…不破が天才問題児であることは承知の上で、宣言通りに二年で終わらせるんだとして…二年もお前日本にいねぇの? まじで?」

「だからそう言っている」

「テメェよくもヌケヌケと言いやがって…少しは寂しがれ!不破にとって俺と言う存在は眉一つ動かす価値もないってか!」

「……」

「いま動かして見せる奴があるか!!」


女が見れば「きゃ〜かっこいい〜!」となるかも知れないが、男の俺には「なんつー気障な!」としか思わない。

俺は掴んでいた不破の胸倉から手を放して、もう一回「まじかぁ…」と溜息と一緒に吐き出した。呟きに対しても律儀に「まじだ」と言ってくる不破は、そんな何回も俺の心臓に槍をブッ刺して楽しいんだろうか?




「………俺も連れてけ」

「英語もまともに話せないナマエでは苦しいと思う」

「一生のお願い」

「…さっき使っていたからそれは無効ではないのか?」


それをぶり返すとはなんて生意気なんだ不破の奴は。そこは流すとこだ。
そうでも言わないと手立てが俺にはないって言うのに。俺の気持ちを理解出来ん奴がイタリア人とコミュニケーションを取れるとは思わないんだが。


「………だが、俺の分のはまだ残っている」

「…は? どう言うい…」


「俺の"一生のお願い"の発動だナマエ 俺と一緒にイタリア留学に付いて来てもらいたい」


「ぃ、やったぜー!! イタリア! 旅行! 嬉しいー!!」

「現金な奴だな。俺がここで"冗談だ"と言えばすぐに死にそうなレベルになるのか」

「大地は冗談なんて言ったことねぇし、大体 お前が俺の名前の方を呼ぶときは俺を頼りにしてるときだ。応えてやらねぇとなー 友として!」


英語もましてやイタリア語も話せないが、京介が計画の発案者なら通訳もつけてくれるだろう。あいつの理事長の仕事が忙しくなる前まではよく会っていた。 
「そうと決まれば」話を終えたとばかりに不破が立ち上がる。 そう言えば後頭部が痛かったんだった、忘れてた。


「料理は冷め切っているだろうな」

「おっとそうだった。 なあ、食べた後に出かけようぜ。イタリア語の本買う」

「いいだろう。今日なら行ける」

「その後でおでん屋行こうぜ。たまには屋台で酒飲もう、酒」



あわや悲しい誕生日になりかけていたけど、どうにか軌道修正に成功した。
間違いなく来年も不破は面と向かって俺の誕生日を祝ってくれるだろうし、俺も不破の誕生日を隣で祝ってやれると言うことだ。

昔に不破が言った「誕生日解明」と言う言葉とは別に、もう一つ思い出したことが出来た。きっと不破は意味が分からないだろうけど、「なあ不破 解明は出来たか?」と訊ねる。案の定、不思議そうな顔が見返してくる。なんのことだ、か。

小学校低学年の頃に不破は俺に向かって
「なぜナマエはおれと友好関係を持ち続けるのかの理由が分からない。これもいつか解明する」って言ったことがあった。 俺は笑って言う。悩み続けていろと。昔の不破にも、今の不破にも、理由は半永久的に理解出来ないだろう。

でもそれは別に、俺の"不幸"には絶対にならないんだ。




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