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刃が作る境界線


※カナキリ関係の設定捏造

−−−−


今日も今日とて獄都の空はどんよりと翳っていた。ここ最近の獄都の天気と言えば陽射しなんて元より太陽さえ滅多に拝めない。皆に言わせれば獄都は毎日曇り空のようだ。雨が降らないことが幸いである。
まったく、こんな日は読書をするに限る。客の来ない店番ほど退屈なものはない。読みかけだった専門書の栞を手繰る。脇には茶の入った湯呑みを置いて、あの世の住人達が往来する大通りを望む軒先に腰を下ろし、優雅で陰鬱な午後の昼下がりを楽し……………


「ナマエさん」


…もうとしていたところに、実直で堅固な響きが音からも伝わって来るかのような声で呼びかけられる。

いつの間にそこに立っていたのか、店先の暖簾を潜ったところに一人の男が立っていた。まごう事なき久々の客だ。しかも顔見知りも顔見知り、唯一の常連客と言っていいだろう。


「 よう斬島君!久しぶりだな!」
「ナマエさんも相変わらずなようで」
「当たり前さ。毎日何も変わった事もなくて暇なんだ、変化すら近寄って来ないよ」


戸口に立っていたのは斬島と言う、青年。あの世の獄卒に属している彼は、よくうちを利用する為に度々ここを訪れていた。本日も洒落っ気のない軍服に身を包み、片手には大事そうに握られた"カナキリ"


「 "汚れた"のかい?」
「…はい」
「どれどれ、見せてくれ」

斬島の手から直接カナキリを受け取り、慎重に鞘から身を抜いて検める。
成る程確かに。刀身には刃こぼれと、そして個人の手ではどうしようもなくなったような血糊がこびり付いていた。


「派手に殺ったみたいだね。先の獲物は大物だったかい?」
「…ええ、手強い亡者でした」
「へえ。斬島君がそう言うのは珍しいね。よし分かった、今回もこの"凄腕鍛治師"のナマエさんにドンと任せておきなさい」
「…すみません。…よろしくお願いします」

礼儀正しく頭を下げる斬島に、いつものように「まあ中に入って、座って茶菓子でも食べてなさい」と声をかける。最初の頃は遠慮していた斬島も、ここ何十年ですっかり慣れてくれたようですぐに煎餅の包み紙に手を伸ばす程だ。成長が窺えるだろう。

そしてカナキリ。また今回も傷だらけになってはいるが、それだけ"この子"は斬島を守ったと言うことだ。打った者としてもとても鼻が高い。


「 手入れはしっかり続けてるみたいだな」
「はい」
「感心感心。斬島君が自分の手でやれる範囲のことを疎かにするような使い手じゃなくて良かったなぁ、カナキリ」

刃を見ただけで、その刀が持ち主に大事にされてるかは分かる。その点で言えば、カナキリは恵まれていた。もっと酷い客ならこの人生で何百と見てきたからだ。


「しかしカナキリの傷を見るに、随分と仕事づくめなんじゃないか? ちゃんと休養は取れてるのか斬島君」
「……どうでしょう。休みが出来ると谷……同僚と手合わせや鍛錬などをしてるので、休みと呼べるかどうか」
「うーん、それもイイけど、やっぱり休みも大事だぞ?俺を見ろ、毎日休養してるおかげで手や指以外は傷のないキレイな身体さ!」


見ろ、と言ったせいで斬島は真面目に俺の体を観察してるようで「そうですね」とどこか間の抜けた返事を寄越した。さても冗談はこの辺にして。


「まあイイさ。斬島君の好きなように過ごすといい。でもウチに来た時くらいは、そうやってのんびりとしてくれ給え」
「……ありがとうございます、ナマエさん」
「この後は仕事あるのかい?出来るだけ早く修繕を終えた方がいいかな」
「いえ。この後は何も。急な呼び出しはあるかも知れませんが」
「そうか。じゃあ暫く俺の話し相手に付き合ってくれよ? おじさん、寂しかってね」
「分かりました。善処します」



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