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「#幼馴染」のBL小説を読む
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おいで


最近の大地さんは働き者過ぎだと、桂木ナマエは思うのである。


でもそれは、決して今に始まったことではない。
大地さんと出会った頃から知っているように、自分を犠牲にすることを厭わない人だ。彼のそんなところに、過去の私が助けられたことがないわけではないために、一概にそれを大地さんの"悪いところ"だと決めつけることは出来ない。

ただ、それでも昔よりはマシになってきていた方だった。

自分の口から言うのは憚られるけど、私と付き合って、私と結婚して、「帰る場所があり、待ってくれる人がいることの素晴らしさを知ってしまうと、もう前のような生き方には戻れないな」と言ってくれた。とても嬉しい言葉だ。


それでも最近、どうもまた大地さんは無理をしているように思える。


帰宅時刻は変わらないし、お仕事が激務になったわけでもない。私が日本の家に帰っているときは「制限速度ギリギリに車をとばして帰ってきた」と言ってくれるし、急な呼び出しがかかってくることもない。

けど、顔色が優れない。
仕事の内容が変わったのでもないなら、もしかしたら大地さん、体調を崩しているのかもしれない。
季節の変わり目だから、それもあり得る。幾ら鍛えていても崩してしまうものは、いとも容易く崩れるものだ。




「大地さん、具合悪かったりしませんか?」
「えっ?」


私が自分の中だけで結論づけていることを勿論大地さんは知らない。

ソファに並んで一緒にバラエティ番組を見ていた私が急に静かになったことを心配してくれていたらしい。ありがとうございます。違う、そうじゃなくて。


「最近の大地さんは、何だか疲れた顔をすることが多いです」
「そう…か? ナマエが断定口調とは珍しいな」
「もう何年も大地さんのこと見てるんです。顔色の変化くらい、すぐに分かります」
「……あ、ありがとう……」


照れたように頭を掻いた大地さんの方へと向き直り、些か口調を強めて問い詰めてみる。


「無理、してませんよね?」
「 ああ、してないよ」
「私の見てないところで、お仕事を抱え込んでたりしませんか?」
「してない」
「絶対ですか?」
「絶対だよ。俺はナマエに嘘は吐かない」
「知ってます」


過去にお願いした、演劇の台本読み合わせのお手伝いをしてくれた時の大地さんを思い出して微笑む。
釣られて笑ってくれた大地さんの顔は、さっきよりも朗らかなものになった。


「でも疲れてますよね?」
「……そうだな。もう俺も年だし、もしかしたら日頃の微々たる疲れが抜けずに蓄積して行ってるのかも……なんて言ったら、またおじさん扱いされるかな?」
「しません。 あの、何でもいいので私にも相談してくださいね?」
「相談?」
「私に出来ることなら何でもやります。お料理は勿論バランスのいいものを作るし、ミドリに教えてもらったマッサージだって試してみるし……」
「はは、ありがとうナマエ」


大地さんの大きな手のひらが私の頭を優しく撫でてくれた。
私も、お風呂上りで水分を含んでいつもより乱れている大地さんの髪の毛に手を這わせる。大地さんは気持ちよさそうに目を細めた。


「大地さん、何か私にして貰いたいことってありませんか?」
「ナマエに、してもらいたいこと……」
「何でもいいんです。いつもしてることでもいいし、普段はしないことでも。お願いします、頼んでください」
「どちらが懇願してるのか分からないな、これじゃあ」


「うーん……」
大地さんが顎に手を当てて天井を仰いだ。
暫く考え込む様子を見せている、その横顔をじっと見つめてみる。恥ずかしくなってきたので途中で目を逸らしてしまった。


そしてふと。何かを思いついたのか、大地さんが口を「あ」と開く。
空かさず「なんですか!?」と迫れば、大地さんは何故か顔を真っ赤にさせて言い淀むような態度を示す。


「言ってくださいよ!」
「い、いや、でも考えてみたんだけど、口に出すのは、少し恥ずかしくて……」
「言わないと伝わらないです!」
「そ、そうだな。うん。い、言う……」
「はい」
「……………………くら」
「……えっ? あの、ごめんなさい、もう少しハッキリと……」


のぼせてしまったのか、と言わんばかりに、大地さんの顔が真っ赤になってしまった。思わずこっちが心配になってしまうほどに。

慌てて大地さんに差し伸べた手を ギュッと強く掴まれる。
そしてスゥと意気込み、


「逆……!…………ひざまくら、を…………」


「……………え? 逆、膝枕?ですか?」
「そ………そう、だ」

「逆膝枕と言うと、男の人が女の人を膝枕してあげる、あれですよね?」
「その認識で合っているよ………」


ぎゃくひざまくら……… それって、私が、大地さんに、膝枕をしてもらうってこと!?
た、確かにそれはしてもらったことない!逆は何度かあるけど、その逆は初めてだ!


「ど、どうしてまた」
「い、嫌ならいいんだ!」
「いっ!いえ!!嫌ではないです全然!全く!」
「そ、そうか!」
「ただ、急にどうしたのかなぁって!」
「その、この間、瑞貴とそらが話しているのが聞こえたんだ。『女の子を膝枕してあげたいよな〜』『そらさん、お相手もいないのにどうやろうって言うんですか?』と……」

そんな2人の会話の光景が目に浮かぶようだ。

「………えっと、つまり大地さんはその2人の話を聞いて、いいなぁって思ったって、ことですか」
「ナマエにしてあげている姿を想像してみたんだが」
「(想像したんだ、大地さん……)」
「こう……何とも言えない感情が胸に浮かんでだな……」


何故か途端にしどろもどろになってしまった。顔は相変わらず真っ赤なまま。口に出すことが恥ずかしくてたまらないけど、それでも言ってしまったほど望んでくれていたのかも知れない。でもそれって。


「大地さんの疲れを癒すことになってます……?」
「なる! なるさ!!」

拳を握られてしまった。

「え、えと……………」
「……うん」
「では……………よ、よろしく、お願いします……?」
「あ、ああ………此方こそ……」




お互いに頭を下げて始まる膝枕とは一体、なんなんだろう。












その後。
無事に、大地さんに膝枕をしてもらったわけなのだけど。



「ナマエ!疲れていないか?膝枕しても構わないか?」
「お、お願いします!」



大地さんは"逆膝枕"をとてもとても気に入られたようだった。



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