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郵便配達人が未知の邂逅を果たすだけ


僕の知っている『女子高生』というものは、もう少し「きゃっきゃうふふ」としているか、「あーマジで彼氏欲しい貢がせたい」と恐ろしいことを言っている難解な生物であった。

休日の昼から自宅の庭で、自作の装填器を使って装填トレーニングを行ってはいない。


なんだこの風景はと僕はその和風木造建築二階建ての家の表札の前で固まっていた。



本土の一般大学を卒業後、日本郵便に就職、その後人員補充のために大洗女子学園学園艦内にある大洗学園艦郵便局に左遷……もとい異動し、初の配達業務の真っ最中である。
大洗女子学園に通う生徒たちの保護者や家族が住んでいるだけの町とは言え、そこに人がいれば自ずと通信手段は生まれていく。
いくら、担当地域の世帯数が本土にある都市部の一般的な数より少ないとは言え、新任先の土地に早く慣れようと勤しんでいたのだ。
そう、僕はあまり、"此処"に詳しくない。そこで暮らしている人たちの生き方とか、生活習慣、流行のものなど、多く。


「……じょ、女子高生が、戦車の弾を持ってる光景って……」


奇怪な名前の表札が掲げられたシェアハウス前で、一通の手紙を持ったまま固まる僕に、ついにトレーニングしていた少女が気がついたようでタオルを手にしたまま顔を覗かせた。
「ん?」炎天下の中、どれほどの間トレーニングをしていたのだろうか、頬やタンクトップから覗くむき出しの腕には大粒の汗が伝っている。


「郵便配達の人か?」


「 えっ!? あ、はい」
「いつものオジさんじゃあないんだな。担当を変わられたのだろうか」

不思議そうに首をかしげながら、少女が近づいて来る。つい、背筋を伸ばしてしまった。

「あ、いえ。前任の方は定年退職をされ、本土に帰られました。今後は、後任である自分が、この地域一帯の配達業務を任されることになりました」

「 そうか。――ご苦労様です」
「こ、此方こそ」

軽くお辞儀をされ、戸惑ってしまったが此方も深々と腰を折って頭を下げた。そこでようやく、僕は自分の手に握り締められてしまっていた手紙の存在を思い出す。

「――ええと、こちらをお届けに。……『杉山 清美』様宛のお手紙です。住所は此方なのですが、表札にお名前が無かったので直接お伺いに……」
「ああ、それは確かにうちにいる者の名です。私が代わりに受け取っておこう」
「よろしくお願いします」

白い封筒に、糊付けだけされた装飾のない質素な封筒には、送り先の住所に受取人の名前。
手紙を受け取った少女は手紙を裏返し、そこに書かれていた差出人の名前を視認すると、
「……ああ、ガンオタ少年からか」と言い、ニマニマと笑った。

「では確かに、渡しておきますので」
「はい。では、失礼します。トレーニングを邪魔してすいませんね」
「いえ」


どこか優雅さを感じさせるように、少女は瞼を閉じて瞳だけで会釈をし、タオルを肩に回しながら、家の門戸を開いて中に入って行った。

僕も立ち去り、他の家を回らねばならなかったのだが、どうしてもあの装填器と弾の存在が主張しすぎていて、不可解でたまらなかった。


全ての家を回り終わり、不在だった家から持ち帰った郵便物と、差出を頼まれた荷物とを持ち帰り、不在票を管理担当の者に託した後、煙草で一服つこうと郵便署内の喫煙所に立ち寄るとそこで会えた先輩に、それとなく話を振ってみた。
「自宅で、弾の装填訓練をしている女子高生を見た」と。
先輩はガハハと口を大きく開きながら笑い、「それはお前、戦車道だよ」と言った。


――戦車道なるものが、一体なんなんだよ。


僕にはまったく馴染みの無かった単語だ。何せ僕は子どもの頃からずっと、公務員を目指し、安定した収入と職を得る為にひたすら勉学の毎日だったから武道なんて二の次だったのだ。聞き覚えがない。
それなのに、先輩にとってはどうも「懐かしいモンだよなぁ。うちも、カミサンが昔やってたってんで、よく大会に応援しに……」なんて昔話まで始めるほど、思い入れの深いものであるようだ。





あんまりにも先輩の語る口が止まらないからつい、

「そんなに面白いものなんですか、戦車道って」

なんて訊ねてみたら、先輩は一笑に付して

「それは、やってる女の子に訊いてくれや」

と言った。




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