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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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小指の予約


ポート・ブリーズ群島の街中で、荒くれに絡まれていた青色の長い髪の少女を可愛かったので気まぐれに助けてみたら、あれよあれよと言う間に俺は、グランサイファーなる騎空艇とその仲間たちの輪に加えられていた。
団長の少年――グランが、これまた温厚というか、「いい奴」というか。何でも「荒くれたちと戦っていた貴方は強い上にいい人だ」であるらしい。
俺もちょうど、旅の途中で島を渡る方法を考えてはいたし、最近の魔物たちの活性化も踏まえた上でどこかの騎空団に入ろうかなあなんて考えていたから都合は良かったわけだったが。

グランの率いる騎空団は現在、俺と団長を含めても団員がまだ10人にも満たない小さなもので、今後を見据えてまだまだ沢山の仲間を見つけるそうだ。
それまではこのグランサイファーの船内にある船室にも多くの空きがあって、新参者である俺にも部屋を与えられたが二人用の大部屋を一人で独占状態だった。
 そうそれも、今までは、の話だ。


ある日。
物資の補給のために街に行っていた団長たちが、また一人仲間となる人物を連れて帰って来た。
その人物が、俺の相部屋の相手となったわけだが、こいつがまた途轍もなく不思議な奴だったのだ。








「――おいクルーニ!! しっかりしろ!!」
「…………う、うぅ……」
「ああ、また顔色が悪いぞお前…!ほら、掴まれ!」
「……ははは…悪いね、ナマエ…」


今日もまた、同室の相手であるエルーンのクルーニが、俺たちの部屋の前の廊下で倒れていた。それもドアからほんの少し距離を置いた場所でだ。

けれど薄々こうなる予感は朝からしていた。
朝にこいつが自分自身の今日の運勢をダイスで占ったとき、ファンブルが出た。いつもそうなんだ。
たまたま、極稀にファンブルの目が出た日は、クルーニは大体調子が悪くなる。
俺から言わせて貰えば、占いや運勢など良い結果のものだけ信じていればいいだけで、悪い内容なんて気にしなければいい。でもクルーニは俺のような性格じゃない。気にしいだから、占いを病んで、結果 気落ちする。


細っこい身体のクルーニを横抱きにして抱え、足で自室のドアを開いてズカズカと進入する。
大きな仕切りで分けているクルーニ側のスペースへとお邪魔し、乱雑に物が置かれているベッドへと彼の身体を横にした。


「大丈夫か?」
「ああ……平気だよ、別に…これくらい……」
「そう見えないから言ってるんだろ……オレンジでも食うか?」
「要らないよ。近づけたら許さないから…」
「冗談だよ」


クルーニは横になったまま青白い顔をしていたが、やがて身につけていたマントに包まり、モゾモゾと身体を丸めた。
柔らかな毛に覆われた、エルーンの特徴的な耳がピクピクと動いているのを ベッドサイドに立ったまま何と無しにぼんやりと見つめる。あれ、そう言えば何でおれこいつを見てるんだ?


「……いつまで見ているんだ……」
「本当だな。じゃあ俺、団長たちの買出しに付き合って来るから、クルーニはじっと休んでろよ」

踵を返し、部屋を出ようとドアに近づくと、背後からクルーニの弱々しく暗い声が聞こえてくる。

「……ははは……やっぱり僕は無能なんだ……」
「おい、どうしてそうなる」
「だって、ダイスでファンブルが出ただけで一日ずっとこの調子なんだ……気を紛らわせようと街に行こうとしたけど、なにかあるかもと思うと何もかもが億劫で……ナマエが常々言ってるけど、気にしすぎだよね僕……」
「そう自覚してるだけ、まだ立派だと思うけどな俺は」
「……ナマエはいい人だよね……もし君が死んだ時は、その骨でルーンダイス作りたいなって思うくらいには……」
「嬉しくない」
「そう…」


残念。クルーニはボソリとそう呟くと、マントを頭から被って顔と身体を使ってそっぽを向いた。もう話すことはない、と言うようだ。

何とも不思議な男だ。扱いづらいとか、一緒にいて楽しくないわけではないところがまた不可解と言うか。
これはたまたま今日が「ファンブル」の日だっただけで、普段はもう少し、陰気に明るい奴なのだが。



「まあ、小指の骨くらいならやってもいいぞ」


「もらう」


クルーニはマントを放り捨てるようにして起き上がった。
細い足をペタペタと鳴らしながら、ツカツカと勢いよく歩み寄って来る。さっきまでのダウニーな感じはどこ行った。


「確かに聞いたからね、今の言葉。予約したから、これ」

小指を両手で掴まれる。
そんなに質のいいモノでも、ないと思うんだがなぁ。




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