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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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塩味のなみだ


我らが炊き出し班のリーダーでもある"炊き出し手伝い係"通称:メイド先輩は、カレールーがなみなみと注がれた大鍋も一人で軽々と持ち上げてしまう。大の大人が二人がかりで運んでようやくと言ったぐらいの重さなのに、キッチンミトンを嵌めて「よいしょ」の掛け声ですんなりと。さすがだ先輩。可愛い見た目に反して力持ち! 料理もうまい! 気配りもできる! 茶目っ気もある! これで実は男とは世も末だぜ!


「なんでナマエ君今日そんなにテンション高いの?」
「訊いてくれるっすかメイド先輩!さっすがです! 実はさっき議事堂内で13班の皆さんを見ちゃって!任務に出かける前みたいだったっすけど、マジチョーラッキーだったっす!なかなか見かけないからレアっすよ〜感激〜〜」
「へ〜ナマエ君も13班のファンなんだ」
「ファンなんて!むしろ信仰してる勢いっす!」


「へー」


あ、一気に興味なくされた。
どうしてですかメイド先輩!話の勢いはここから加速するところでしょう!そこは「信仰?なになに、何で?」って話の輪を広げてもらうべきだった!なんでいきなり無視するんですか!俺の話もっと聞いてくださいよ先輩!


「バカ言ってないでホラ前見て!君の言う"信仰対象"さんが来てくれてるよ」
「えっ!?って、あ、ほんとだっ」


大食堂の入り口付近がにわかに騒がしくなっていたことにようやく気がついた。
13班の皆さんが、食事を食べに来たのだ。
それまで大食堂内にいた人間の殆どが13班さんたちの方を見て、「13班だー!」と嬉しそうにしている。中には皿とスプーンを持ったままはしゃぐ人らも。すかさずメイド先輩の「食器が危ないから注意してください!」の声が飛んだ。


「今日はリーダーさんと、フードさんの2人だけみたいだね。いつも一緒にいるルシェの人はいないのかな……って、ナマエ君? なんでいきなり壁の陰に隠れてるの?」
「だ、だって…!俺のか、神が、すぐそこにぃ…!無理無理むり!恐れ多いっす!」
「え〜…?本当どうしたのナマエ君、そんなになっちゃって」


「おっ、今日はカレーだってよ。イイ匂いじゃねぇかあ〜」
「ほう、カレーか。いいな」


「!!」
「ほら来たよ2人が。ナマエ君、こっち来て二人の分の配膳用意して!」


そうしたいのはやまやまなんです、俺も。

けど、あの、手、こ、こっち、見て、



「………おや? 君は……」
「!!!」


「……そうだ。いつぞやの、首都高で遭難していた学生だ」
「お?マジじゃん。へー、アンタ給仕係になったのか。あん時泣きべそ掻いてたのによ」
「そう言えばそうだったな」
「確か、お前が見つけてたっけな。目敏いよなぁお前も」
「うるさいぞ」




おぼえている。わすれない。



奇妙な、息苦しい花に囲まれた、薄暗い空間

首から上がない友人の死体、右半身のない少女の死体、持っていたネクタイで自ら首を吊って死んだサラリーマンがぶら下がっている欄干

それらの死体をドラゴンから逃げるための囮にして、逃げて隠れて閉じこもっていた。

周りをドラゴンに囲まれ、どこにも行けず、死を覚悟していたあの時




聞こえてくる声 ドラゴンを蹴散らしながら近づいてくる足音

かけられた声 差し出された手

「無事か?助けに来た」今も耳から離れず消えない声







「………うぅう…っ!!」

「!? お、おい君!」
「んでまた泣いてンだよアンタ!」

「ほ、ほ゛ん゛とに! あの、時はぁ゛!助けてぐれでありがどうございまじだっ!」

「だからなんで泣くんだっつーの!」
「まあいいではないか、許してやれ。  救助してから、こうして顔を合わせるのは初めてだったな。君が何を思い給仕係に志願したのかは知らないが、自分の役割を見つけることは良いことだぞ」




あの時、死体を差し出してまで生き延びようとしていた自分自身に吐き気がする程の嫌悪感を抱いていた。屑野郎だと心の底から罵った。けれどどうしても死にたくなかった。助けが来るワケないと思いながら惨めに生き縋っていた、あのとき、救助に来てくれたことがどれほどのことだったのか、きっと当事者たちには伝わりっこないのだ。



「あ、あ、ありがどうございまずっ。お゛、おれ゛、飯作るのはそれなりに自信あるっす゛からぁ、その……」

「そうか。ならば楽しみにしているよ。…そろそろよそって貰っても?」

「は!はい゛ぃ゛!!」

「鼻水だけは入れんなよ、マジで」




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