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愛ならば素敵だな


ナマエの一番古い出会いの記憶の中にいるのは、「はじめまして、ナマエ君」と言って笑う榛名の顔である。

当時、提督を務めていた母親のいる鎮守府へと連れられ、そこで数多く顔を合わせたであろう艦娘たちの中で唯一顔と、かけられた言葉と声に覚えがあるのが榛名だけだという事実は、間もなく三十路を迎える男ヤモメとして、昔から今日びまで初恋を拗らせてしまっているなぁと、羞恥に頭を抱えるばかりだ。

たしか今まで作ってきた人間の恋人は、今思い返せばみんな榛名にどことなく似た雰囲気を持っていたような気がする。

長髪で、御淑やか。だけど気丈で、気配りがあって笑顔が可愛い。

この全部が当て嵌まった恋人はいなかった。
なにしろ榛名は唯一無二の存在なのだから、当然だと言えば当然なのだ。



「提督? 今日はお手が止まる時間が多いです。お疲れなんですか?」

「いや、違う。何でもない」
「本当ですか?疲れが溜まっているのであれば、無理せず休んでくださいね。提督は、昔からそうでした」
「………そんなことないぞ」
「いいえ、そうです。昔は試験期間中に遊びまわって、残りの日が少なくなってから慌ててお勉強を詰め込んで、寝不足で無理して倒れたってことが、何度もありました!」
「……………よく覚えてるなそんなこと」
「ええ、榛名は提督のことでしたらなんでも覚えてます!」


今はもう亡くなっている母親は、当時はかなり権力的に強い位置にいたことと、提案と決断が早い人間で、「多忙な提督業のせいで家に帰る時間がない、だから息子に会えない」と嘆いた次の翌日には鎮守府内に仮設の託児所スペースを作るような女性だったそうな。
公式なものではなく、あくまでも遠征も出陣もない、手の空いて暇な艦娘たちにナマエの面倒を看ていてもらうと言ったもので、そこでよく相手をしてくれていた内の一人が榛名だった。

確かに榛名の前で、試験勉強に追われる無様な姿を晒していたこともあるかも知れない。
だがそんな、ナマエ本人でさえ忘れているような、どうでもいい記憶を 何故榛名は今もそんな、後生大事そうに覚えているのだろうか。




「……そのことと関係あるのか忘れたけど、夜更かししてた俺に付き添ってくれてた時に、榛名の方が先に眠った時のことを思い出した」
「えぇっ!? な、なんですかそれ?」
「なんだったっけ……詳しいところは忘れたけど、榛名の寝顔をずーっと見てたのは覚えてる」
「えー!?は、恥ずかしいですよ提督そんな…!」


照れて顔を俯ける榛名は本当にかわいい。
十年以上前から、見た目は一切変わらないのに、それでも全く見飽きないところが、やはり恋は偉大だと感じる。 恋人が出来た時なんて、だいたい一ヶ月くらいで全員見飽きていた筈だ。



「………榛名ぁ」
「はいっ。なんでしょう提督」







「……………、俺と結婚してください







「…? すみません提督、いま何と…」
「……や、何でもない。眠いなって思っただけ」
「それはいけません!すぐにお休みの準備を整えますね!」



……ああまた今日も駄目だった。
このままじゃ完全に婚期を逃す。
いや、もしかしたら榛名とじゃなくて、普通の人間の女と、いつか、結婚することになりそうな気さえしてくる。

参ったなあ。また榛名によく似て、榛名ではない女を探すことになってしまう。




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