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A


本日、鎮守府に派遣されてきた新しい提督。
出迎えに出た榛名が目を真ん丸くさせたほど、小包か、何かかと思うくらい小さな身体で、提督を連れて来る際に随伴していた海軍役人が頭を下げる様子を見なければ迷い子かと思ったほどだった。

これが新しい提督、これが。
皆の思考にそれが浮かんだのは必然だ。前任と比較することは良しとしないが、この女児提督、何やら様子が変なのだ。
本鎮守府内にいる全ての艦が待機しているからそこに案内します、と、頭を垂れた榛名の言葉に反応を示さなかったその不可解な態度も、


「HEY! アナタが新しいテートクねー! ワオ、So Cuteデース! 私、金剛って言いマース!テートクこれからヨロシ、」


「宜しくしないで結構です。したくありませんから」


「………Wow……テートク、So Coolですネー………」


提督の着任挨拶より前にハグしようとした金剛のコレを拒んだ態度を見て、艦娘たちは一様に息を呑む。

ぶかぶかの海軍帽子に遮られて見えなかった顔を上げた。そこには、駆逐艦と同じくらいの背丈、年恰好でありながら、光のない、やけに暗く淀んだ二つの瞳が射抜くような力強さでここにいる全員を睨んでいたのだ。


そして提督が口を開く。年端の行かない少女然とした高い、朗々とした声が告げ始める。

「まず最初に言っておきます。私が国家海軍直属提督という地位を与えられたのは実力で手にした物ですからご安心ください。ですが私がこの鎮守府に着任を決めたのはあなた方を指揮し、上に立つ為ではありません。」

「私は、あなた方のことが大嫌いです」


両の腕で己を掻き抱いていた潮が、「ひっ…」と喉を引き攣らせた。
他の者たちも、開いた口が塞がらない。
よもや、新しく着任してくる提督にこのような事を言われるとは、想像だにしていなかったからである。


「貴方達は、"人間の紛い物"でありながら、人間を誑かす悪魔です。戦いのことだけを考えていればいいものを、人の身体を持ったからと浮ついて心まで人間のそれと同じになるとは、勘違いも甚だしいとは思いませんか?」


「な…っ! 何よ、アンタ!いきなり何をワケの分かんないこと言ってくれちゃってるわけ!?そんなことをアンタに言われる筋合い、ないと思うんだけど!」


我慢が出来なくなった曙がつい口を開き提督にむかって噛み付いた。
だがその視線ですら煩わしそうに、手で振り払う仕草を見せた後、提督は口の端にほんの少しだけ笑みを見せる。
傍らに控えていた榛名は、胸の内で、不愉快な音を聞いたような気がした。


「筋合いも何もありません。あなた方を率いる気は毛頭ありませんが、提督という立場を最大限利用して、成し遂げたいことが一つあります」


また一層、瞳の色が淀んだ。


「復讐です」



ふくしゅう、

呆然と呟いた榛名に、「そうです」と返した提督は海軍帽子をそっと手に取った。――やけにぶかぶかで、彼女の頭のサイズに合っていないソレを、彼女はとても大事そうに触れている。


「前任の提督―――私の父親を、誑かした艦を見つけ出し、破壊する。それがたった一つの目的です」





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