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『空間転移の術』は禁術である。


乱用、多用すれば、自身の体に大きな負荷を与え、一歩間違えれば何処かとも分からない場所に転移したり、四肢の一部だけが本体から切り離され転移するなど、リスクが高く、デメリットの多いこの術はとても危険なのだと、俺の忍術の師範だった祖父は教えてくれた。

しかし祖父はこの術を使えなかった。
親父も使えなかった。親父の弟も習得出来なかった。

我が家の家宝であった忍術の書の内容を 直近の誰よりも深く理解出来たのは、俺だけだったのだ。祖父から言われた言葉をはっきりと言おう。俺は"天才"ならしい。


しかし、禁術を唯一習得できたことを褒められこそすれ、祖父は冒頭のようにこの術の危険性ばかりを説き、親父や叔父さんからは口に出しはしないが恨みがましい、嫉妬のようなモノをぶつけられることとなった。

俺の周りを取り巻いていた男たちのそれらの感情を 一切合財気にすることがなくなったのは16歳になってからだ。基本があっけらかんとした性格なのである。





今年で21歳。花の大学生活を満喫中である。俺のこの歴代家系の中でも特に優秀である忍者の才能を後世に託すべく、素質のある子を産めるような伴侶を探して来いと言う祖父の遺言通り、俺はまったく、健全なる理由により、女の子をハンティングしているのだ。勉学のためだとは口が裂けても言えない嘘だ。

だがうちの実家は山奥にあり、街の中心部にある大学まではかなり距離があった。山々を走って通学してもいいのだが、それが毎日だと疲れるわけで。
そこで俺は、この『空間転移の術』を それはまあ 多用していた。


今日も術を使った。
使用するたびに祖父の忠告を思い返していたが、「まあ昨日は無事だったんだし今日も大丈夫だろう」という考えで、毎日術を使っていた。



結論を述べよう。
今日の俺は、大学に着かなかった。術に失敗した。

千切れた身体の部位はない。五体満足である。

ならば残っている選択肢は? そうだ。






「………ここは、どこだー」





現在俺は高層ビルの上にある、ヘリポート?…いや、駐車場、パーキングエリアだろうか、そこに立っていた。四方八方、地上が見えないくらいの高さであるそこからは、ビル群やヘリコプターなどが見える。


それだけならば「ああ、変な世界とかじゃなさそうだな。日本のどこかだろう」ぐらいに考えられただろう。だがしかし、どうしても俺の中にある常識ではピンと来ない景色が二つある。


一つは、この駐車場一体にこびりついている、緑とピンク色の謎の液体――インク?
道、コンテナの上、壁、空間という空間に二色が混ざりながら塗り固められている。


そしてもう一つは…



「……………」
『…… …』
『……  ………』
『…』
『  ……』



何やら玩具のようで、それでいて物々しささえ感じさせる武器、のようなものを手に持った、ピンクの髪の毛をした、小さい、ヒト のようなやつら



「……は、ハロー」


外国人であれ、と思ったのに



『――!! ○×☆!!?』



物凄い剣幕で口々に叫ばれた単語は理解できないものだった。
俺は逃げた。ほぼ条件反射のように、『隠遁の術』を発動させ、建物の影の中へと身体を沈め、一目散にその場から逃げた。それにより元いた場所の方角から更なる叫び声が上がったのが聞こえた。わけが分からない。あれは、俺の身体が急に消えたから起きている驚きではない。"あいつら"は何だ。 そしてここは、どこだ。


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