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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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道行く他人が話していた話題が耳に入っただけでこの男の盛り上がりようは何だろう。

「もし今この瞬間のHLに大量の隕石群が落ちて来ようとも君だけは守ってみせるよチェイン」

一体何年前の少女漫画に出てくる王子様気取り?今時そんな言葉で喜ぶ女は、HLにはいてないよ、きっと。

「必要ない。私だけトンズラかますから、君だけ頭の先から爪先まで穴ぼこだらけになってたらいいよ」
「俺の四肢が分裂しても、その一つ一つが君を愛することだろう」
「想像を絶する気持ち悪さだね」


今は異界人間で行われている薬物不正取引現場までの尾行任務の最中であるのに、ナマエは先程から口を一向に閉じない。ナマエが持ち出してくる話題に逐一付き合っているチェインにも非があるが、幸いなことに尾行相手がいたく鈍感なのか、ナマエの声が上手く喧騒に紛れ込めているのか、相手が此方に気付いているような素振りは見せていないことから仕方なく彼女は彼の言動に付き合っているのだ。
――軽くあしらってしまえば、どれだけ楽なことか。


「大体、隕石なんか落ちてきたところで、ボス達が全部撃ち落してくれるよ」
「それもそうだ。では俺はその様子を窓から眺めつつ、落ちてくる流れ星すべてにチェイン君への愛を念じていることにしよう」

ぽつ。鳥肌。

「……じゃあ私はその流れ星一つ一つにナマエへの呪詛を念じる」
「なにっ!?そんな勿体無いことしないでくれ!たかだか石如きに君の言葉をくれてやるくらいなら全て僕が受け止める!」
「そう? じゃあ今すぐ仕事に戻ってド低脳野郎」
「はい」

デコピンを喰らったオデコをそんなに嬉しそうに撫でなくても。
そう思いはするけれど、それを指摘してあげるほどチェインはナマエのことを"好き"ではない。
今ナマエに望むことは、あからさまに怪しい路地裏へ入って行った尾行相手を追いかけることだ。
デレデレした顔を引き締めて、私のことなんか頭から外して、仕事に集中して。心の中でいくつも発破をかける。この、かわいそうな男に。


君も私も、不毛な恋をしてるよね。



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