「レオ君のソレってさー、目で良かったよね」
ダイアンズダイナーに集まって昼食をとっていたザップ、ツェッド、そしてレオナルド 発言者のナマエを除いた三名が揃ってクエスチョンマークを浮かべたところで「だってさ」と続ける。
「もしそれがすべてを見通す「神々の義眼」じゃなくて、すべての匂いを嗅ぎ分ける「神々の義鼻」とかだったらカッコ悪くない?」
「…いやなんだよギバナって…」
「……た、確かにカッコ悪い……!」
「ぅオイバカ!なぁにが『確かに…!』だ!」
ザップの指摘も空しく、レオナルドとナマエの両名はしきりに「鼻じゃなくて良かったな」「鼻じゃなくてよかった」と頷きあう。レオの隣でバーガーに齧りついていたツェッドをも巻き込んで、「な、ツェッド君もそう思うよなぁ?」「はぁ、まぁ…」「だよな!」同意を得て嬉しいのか、机を叩いて喜んだ。
「いやぁ、オレもまだまだ未熟な宝石商だけどさぁ、レオ君のその義眼は吸い込まれそうなくらいツルッピカでヨダレ出るわ」
「本当に垂らしてんぞ」
厚手のコートの袖口で口元を拭ったナマエは目を爛々と輝かせてレオナルドへと顔を寄せる。
「もしさぁ、その義眼のレプリカとか作ったら高く売れると思う?」
「あっやっぱそれが魂胆ですかナマエさん」
「うんそう。インテリアとかちょっとした置物に良さそう。ディテールとかもっとよく見たいからちょっと外したり出来ない?」
「出来ませんしやりませんよ!」
わざとらしく大きな舌打ちをして顔を歪めたナマエに、本当はこの人の正体って人間、人外問わず宝石やアクセサリーを売りつける旅商人ではなく血界の眷属なのでは?と思うこともあるが、この人はちゃんと鏡に映るしオーラも見えている。その色が他の人に比べてドス紫色をしているのが気にかかるが。
「つーかどうしてアンタもココで食事取ってんだよ」
「そう言えば珍しいですね」
ピクッ
ナマエの肩が跳ねた。そして小刻みに上下に動き出し、さっきまでの苛立ちなど大したモノではないような般若顔を浮かべたナマエに、三人は椅子の上から後退りをしてしまう。
「いやあさっきまで君らのアジトにいたんだけどさぁ、商品を買ってくれないと路頭に迷ってしまうんです一つでいいから買ってくれませんか、って泣きついたのに君らんとこの血も涙も凍っちゃってる冷血漢から「お前んとこのパチモン商品買うくらいならザップに宵越しの金を渡してやる方がタメになるから帰れ」って尻蹴飛ばされてさーーもうほんとあの腹黒男ムカつく、いっつもオレを蔑ろにしてくんだ、なぁーにがパチモン商品だ。パチモンなのは七割くらいしかねぇーよ。見る目ねぇーわアイツ、マジでどうにかしてやりたい。あのスカした顔を屈辱と恥辱で歪ませてやりたい」
今でもスティーブンの顔が脳裏を横切っているのだろう、爪を立て髪を掻き毟る姿には本当の嫌悪感が窺い知れる。ザップやレオナルドはこの宝石商の姿をもう見飽きていたが、新入りのツェッドは慄くような表情で小刻みに後退している。ついにはダイアンズダイナーのガラス扉のところに到達した。
「……それほど嫌なら、もう行かなければいいのでは……」
「!!」
さらりと指摘したツェッドの言葉に、先程までの般若顔を引っ込め、なんとも言えない微妙な表情を浮かべたナマエにザップが噴出した。
「そんな事したら寂しいんだもんなァ、あんたは!ギャハハハハ!アーハッハッハ……ってイッテェえええええ!!!指!指折りやがったなテメェええええええええ!!!」
「ああ……なるほど……そういう事だったのですか」
「そーです。なんとも面倒臭い人だと思いません?」
「確かに。人格が破綻しているのでは?」
「それ言えてるー」
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