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声を聞き逃す


―― すれば 世界は  ――の ものだ


異音が聞こえて目が覚める。妙な夢を見た。
"コイツ"のコクピットで転寝をした時に見る夢は、大半がすっきりしない内容だ。防護ヘルメットから伸びるコードは今もまだ"コイツ"のサブデバイスに繋がれたまま。どうやら市街地任務から帰還した後、ハンガーで経過報告も完了しないまま精神の糸が切れてしばらく寝入ってしまったんだろう。俺を夢現から引き戻した異音の正体は、"コイツ"が発したアラート音。

『クレスト02 ただちにコクピットから降り、速やかに任務の報告を』

オペレーターの内線も同時に入って来る。仕事に実直な彼女にしては、いつもより入電が遅い。
まさか、少しの間寝かせてくれていたのだろうか?彼女が?まさか。

『応答しなさいクレスト02 任務の報告を』
「りょうかい」
『…声が寝惚けていますね。一度顔を洗ってから顔を出しに来るように』
「……了解」

やれやれ、さすがの付き合いだ。彼女にはなんでもお見通しらしい。

「おい、"クレスト" ハッチを開いてくれ」
『了解 ハッチ、開きます』

軽く拳でハッチを叩けば、俺の声に反応したコンピューターが命令を解し、静かに背中のハッチが外側に開く。差し込んで来た眩い外の光に、メット越しでも目が眩みかける。

「………まぶしい…」

雨の降る薄暗い市街地戦での長時間任務後に、これでもかとライトアップされたハンガーは、やはり目に毒だ。

「……クレスト、ハッチを閉めてくれ」
『了解 ハッチ、ロックします』

『――クレスト02!!』
「! 急に大きな声で入電してくるな!頭に響く!」
『どうしてまたコクピットに戻っているのですか貴方は!早く任務報告を!』
「報告なら此処からデータを送信する、それでいいだろ!俺はもう少し"コイツ"のとこで休んでいたい!」
『…!……はぁ…貴方という人、見たことありませんよ。ACの内部で休息を取りたがる人なんて、ねぇ』

何とでも言ってほしい。
なぜ俺がクレスト・インダストリアルお抱えの傭兵になったかって、この『クレスト白兵戦型』に惚れ込んだのが原因だから、"コイツ"の傍にいれば心休まる時を得られるのは当然なのだ。コア内部にあるこの手狭なコクピットも、慣れた今では一つの世界のようだ。外の世界の音は何も聞こえて来ない。今は大半のシステムをオフにしているおかげで、機械の駆動音も、なにも。聞こえてくるのは、

『……クレスト02』
「君の入電だけだよ。何だ?まだ報告はしてないぞ」
『いいえ、たった今送られて来ました』
「なに?」

俺はまだ一度もデバイスに触れていないぞ。

『"その子"が送ってくれたみたいですよ?』
「……え、"コイツが"?」
『市街地の座標や目標ターゲットのデータ、メインカメラに録画されていた戦闘記録も一緒に、キッチリと』
「さすがは俺の相棒! 最高だ!気が利く!カッコいい!愛してる!」
『………何て俗物的な告白なんでしょうね。まあとにかく、此方が所望するものは提出してもらえましたのでもう貴方に用はありません。次の任務が下るまで、どうぞお好きなだけそこで休んでいますように』
「お礼にあとでCWG-RF-160に新調してやるからな〜」
『……聞いてませんね』

呆れた声を最後に、オペレーターは通信を遮断した。これで俺はしばらく自由の身だ。しかし自由だとは言っても、俺の自由が許される空間は"相棒"のコクピット内だけ。少々手狭だが、窮屈ではないし、迷子にもならない。俺には"コイツ"で、充分だ。




――そう すれば ――は  お前の ――だ



「………!」

また、聞こえた。夢ではないのに、朧気ながら確かになにかが囁いた。
けれど反応できたのはたった数秒だ。俺はすぐに囁かれた内容を忘れてしまった。
何かを行えば、何かが俺のものになる、らしい。

まったくワケが分からない。
なにも欲しくなどない。

何故なら俺はすでに、
最高の存在の内部に包まり、
揺り篭に揺られている。


















(主人公になり損ねたとある一般兵の夢)


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