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「#幼馴染」のBL小説を読む
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あと腕も欲しい。二本でいい


ニドリーノは己が種族のことを鑑みて、人間に捕らえられ"手持ち"となった自分と、他のいわゆる"野生"の同族と比べると、今の自分にない物と言えばやはり「つがい」だろうと気付いている。


「俺のニドリーノなんだから出来ればずっと俺のニドリーノでいてほしい」


こうご主人が言って憚らないので昔から"そういうの"は諦めている。
そもそも、あまり必要にも駆られなかった。種の保存という、生存本能が著しく低くなっていることは生物的にどうかと思うし、折角世の学術的にも雌雄の違いがはっきりと表れているのに勿体無いと第三者が思っているみたいだが、ニドリーノはどうにも気にしていなかった。何せそれよりも、うちの主人であるトレーナーの不甲斐なさったらありゃしないのだ。


「ニドリーノ――! 今あそこで石に躓いてこけた! そしたら可愛いミニスカートにぷーくすすって笑われた! はずい! 泣きそう!モテたいのに辛い!」


なっさけない。


こけた時に足首もついでに捻ったのか、ヒョコヒョコ歩きの主人に、介添えするように手を差し出しているリザードはまたオロオロとしている。
ニドリーノは、懲りずに今日も泣きべそをかいている主人の顔を見るたび溜息が零れるようだった。
主人であるトレーナーがこんな様子では、とてもじゃないが異性だの種の保存だのにまで気を回せる時間がある筈もない。


ニドリーノの前にまで連れて来られた主人のズボンの裾を鼻先で捲り上げる。確かに踝が若干赤く、ほのかに熱を持っていた。

歩けないほどか、という意を込めた視線を送れば、


「歩ける……いややっぱ無理かも……精神的になんか無理かも……」

なんて泣き言を言う。
まったく人間というのは、「精神的に」とかいう、とりあえずつけておけばそれらしい理由として成り立つみたいな便利な言葉を使うのを控えた方がいいとニドリーノは思う。駄目さ加減が加速するだけだ。

ニドリーノは大人しく、主人に背中に乗るように促した。どちらにしろ、悪化されても困るのだし。


転倒した主人を笑ったと思しきミニスカートが此方を指して何やら笑っている。それを目敏く見つけてしまった主人が慌てて視線を逆方向に転じた。


女に笑われれば羞恥をするくせに、
のっしのっしと歩くニドリーノの背に乗っていること自体には何も恥ずかしさを感じないのも問題だよな、とニドリーノは思った。
甘やかしている自分が原因なのかと疑問に抱きながら。

リザードは背中の付け根が痒いのか、しきりに背に手を回して掻いている。
どうした、翼でも生えて来そうなのか。遂に進化目前かリザードお前。

ニドリーノも早く、ニドキングに進化したい。
とりあえずそろそろ、主人を背に乗せずに両腕に抱えて運ぶ方が楽そうだなと思い始めていたところだった。




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